可愛くなんかないからねっ!

可愛くなんかないからねっ! (電撃文庫)

可愛くなんかないからねっ! (電撃文庫)

ストーリー

文野春(ふみのはる)は高校一年生の男子である。ただし美少女として認知されており、ファンクラブも実在している罪作りな少年である。
本人は「男らしくなりたい」らしく、男らしくなるべく努力もするつもりらしいが、趣味は編み物、可愛いものに目がない、何やらいい匂いもする、男子生徒にあるまじき可愛いルックスなどなど、今日も普通の少年達を間違った道に無自覚のまま引き込みつつあった。
そんなとき春は一人の女の子と出会う。その子の名前は砂原コト。普通の高校生に見えて、実は”歌祓いの巫女”という使命を負っていて、日夜街を守るために怪しげな存在を調伏しているらしいのだ。春はそんな彼女に「今起こっている事件解決のために手伝って欲しい」という事を頼まれてしまう。聞いた話によると、どうやら「歌」に異様な力が宿ることがあるらしい。そしてそれは人を害することもあるというのだ・・・。
男なのにどこから見ても女の子、妹にも女の子の服を着て欲しいとねだられる悩ましい主人公である春と、彼(彼女か?)を中心にして巻き起こる事件を描いた学園異能物語の1巻です。

センセェ? センセェ!?

「ワシゃあ……ワシゃあ、『れんたる・ふるむぅん』の四巻が出るのを楽しみに待っちょったがぜよ!」

・・・何故かドラマ版「Jin」の龍馬っぽく書いたりして見ましたが、これ以上そういう方面をつついたりすると作者の人が無念さのあまり死んでしまいますかそうですか? という微妙に残酷な書き出しで感想をスタートしてみた瀬那和章氏の新シリーズ「可愛くなんかないからねっ!」です・・・が、これなかなか面白いですよ?
私はTSものと言われる分野(性別をこんがらがらせる事によって楽しむ系のお話)を結構苦手にしてまして、近いケースでは確か「おと×まほ」ってシリーズから早々に撤退していますが、このシリーズは最後までつきあえそうです。
そのへんの「アウト/セーフ」の境界線って一体どこにあるんすかね・・・。自分でも分からないのに人に聞いてももっとさっぱりだと思いますのであんまり細かくは触れませんが、多分ですけど「どの程度まで性転換を許容/拒絶するか」という辺りに秘密がありそうな気がしてます。あんまり嫌がってばかりなのもナンですし、逆にもの凄く喜ばれてもナンですよね? この話ではその辺りのさじ加減がセーフでした。

「……お前だよ」
一瞬、意味がわからなかった。
頭の中で、エコーする。
……お前だよ。お前だよ。お前だよ。オマエダヨ。
学年トップスリーの美少女がこのクラスに集まってるんだ。砂原さん、小町、お前だよ。
「そんなわけないだろっ!」
ばしぃん、と机を叩いて立ち上がる。
でも、武一は大マジで言い返してきた。
「本当だ。この学年トップスリーの美少女の一角は、お前だ、文野春」
「僕は、男だよっ! なに言ってんの!」
「それは、こっちの台詞だ。なんなんだ、お前、なんで、そんなに可愛いんだっ」
武一が、いきなり強気で言い返してくる。
「今日という今日は言わせてもらう。おかしいだろ、なんで俺が男友達にドキドキしないといけねぇんだっ! なんで年々、可愛くなってんだ!」

男友達に責められてしまうほどの間違った可愛らしさを発揮する主人公の春。その可愛らしさは高校生になってからさらに加速・強化されているらしく、多数の男子生徒を「そっちは進んじゃイケナイ道」に誘い込みつつあるようです。ええそうです。この本の表紙を飾っているのは♂ですが、確かにこの私でも一発二発はイケそうです。

まあそれは本題でないのですが

この話は「まるで女の子だけど一応男らしくなりたい」主人公・文野春(趣味は編み物)が、超常現象を相手に戦っているらしい少女と出会って共闘することになる所から基本的にスタートすることになります。・・・何か一部分に凄く既視感を感じる物語のスタートで、オコジョがいないのが不思議なくらいですが、まあ気にしない事にしますか・・・。
あ、オコジョはいませんけど似たようなポジションについてそうな女の子でヨミって娘が出てきます。そうするとヒロインの春と、マスコットのヨミというのがこの話のホームポジションになるんですかね? で、その他の登場人物たちの人心を一番かき乱しているのも春なので、えー、春くん一人でヒーロー&ヒロイン&ラスボスという事になるんですか?
・・・まあ違うんでしょうけど。実際には人を害する「穢れ」というものが作中には登場してきまして、それを祓う仕事をしている女の子の砂原さんと一緒に色々とやっていく・・・というのが基本的な流れですね。

えーっと

この作者の人の特徴として「日常の隙間を巧みに見つけてきて、そこに怪しげなものを潜ませる」という技を繰り出してくるところがありますが、今回は「唄(歌)」にそれを見つけてきています。
古くから伝わる童謡などがなんらかの力によって別の不穏当な意味を持たされたときに「幽界」から流れ込む異能の力が「穢れ」であり、それによって非日常的な事件が起こっているというのがこの話のメインストリームです。
・・・いやあ、こういっちゃあなんですが設定が実に地味ですよね(笑)。ライトノベルにあるまじき設定の地味さです。ええ、個人的にはこういう隙間産業のような話を作れる人ってそういないような気がしているので凄く褒めてるんですが、そう聞こえそうにないところが残念です。
もっと派手に神だ悪魔だとやる方が何気に楽なんじゃないかと思うんですよ。まあそういう設定を持ち出してくる大抵の企画は企画段階で潰れる(ありきたりすぎて)のが殆どだとは思うんですけどね。
日常的な事から異能バトルを繋げて綴る、っていうのは実は凄く難しいと思うんですよ。私がこの作者の本をついつい買ってしまうのは、そういう所になんとも言えない魅力を感じているからなんです。

総合

いや良かったですよ? 星3〜4ですが、まあ好きなので4つです。
個人的には春の第一の友達である武一くんの欲求不満が間違って爆発してしまわないかという所がちょっと心配ですが、まあ主人公の後ろの貞操の一つや二つくれてやっても私は全く構いませんので、どうかこのまま続けて下さい。あ、でもその際の描写は朝チュンで十分です。リアルに書かれると流石にちょっと引きます。ヒロインの砂原コト、格闘美少女・月島小町ともに(普通の範囲で)魅力的ですので、一読をおすすめしても良いんじゃないでしょうかね。濃いライトノベルにちょっと食傷気味というアナタ、なんというか和風の優しい味付けの物語で、荒れた胃を落ち着かせて次に行きましょう。
イラストはシコルスキー氏です。いやもう何言ってもしょうがないですけどね、相変わらずのクオリティです。もうそういう芸風の人だからという事で全面的に受け入れるしか無いんじゃないですかね? 個人的にはもの凄く評価に困る絵師さんです。単純に嫌いという訳ではないですし、まあこのお話に合っているかいないかと言われると合っているような気がしますし・・・ふぬぅ。

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