トカゲの王 ーSDC、覚醒ー

トカゲの王 (1) ―SDC、覚醒― (電撃文庫)

トカゲの王 (1) ―SDC、覚醒― (電撃文庫)

ストーリー

五十川石竜子(いかがわとかげ)は目の色を変えることが出来る。
比喩的な意味ではなくて、本当に両目の色を自由自在に変えることが出来た。しかし彼に許されたのはそれだけ。それ以上隠された特別な力は何一つとしてなかった。自分の目の異常な力を知ったことを切っ掛けに、奇妙な宗教にはまり込んで自分を省みなくなった両親、そして理不尽な世の中を憎むだけの無力な少年。そしてそうした環境にある子供にありがちなように、異能の力を求めて妄想を繰り返す——。
けれど、それ以上は何も出来ないまま、世界を変える戦いに身を投じる力と自分を幻想して楽しむだけの小心者――それが五十川石竜子という少年だ。
しかし、不毛地帯と化した家に帰ることを拒んである廃ビルに潜り込んでいた石竜子少年は、前触れ無くいきなり割れて砕け散った窓ガラスを切っ掛けに、自分が何か危険なものに巻き込まれたと感じる。その瞬間から悪夢は怒濤の勢いで石竜子少年を嬲り始めた。
中学生のひねた少年には到底許容できないような暴力の嵐が彼を襲う。斬りつけられ、蹴り飛ばされ、抉り取られ、引き裂かれ、ちぎられる。・・・それでもしかし、少年はどこまでもただの少年だった。瞳の色は変えられる。しかしそれが圧倒的な暴力の前に何の役に立つというのだろうか。みっともなくわめき散らしありとあらゆる体液を垂れ流すような恐怖と屈辱を味わっても、現実は都合の良いようには彼に歩み寄っては来ない。
しかし、彼は変わる。自分を変える。一体何に? 彼がなりたかったSDC――ストーンドラゴンチルドレンに。彼の望む世界を変える力を持った何者かに。
・・・というような感じのちょっと異能は混じっているけど基本的にただの人間が主役の話? な入間人間の新シリーズです。

ブリキ氏の

表紙が全力で読者を騙しに来ている件について
・・・いやそういうの今に始まった話じゃないんで別にびっくりしませんけどね? いやそれにしても久しぶりにえげつないわコレは。だって表紙イラストと口絵カラー、裏表紙のデフォルメされたイラストのほとんどが作品の内容を裏切っているんですもん。
可愛らしさとか色っぽさとかえっちさなんて欠片くらいしかなくて、本編のほとんどは主人公の石竜子少年の中二病的な肥大した自意識を書くことと、血生臭くて痛々しい暴力の描写で埋め尽くされてるんですからして。
例えば中二病的な部分として、この作品の最初の文章を抜き出してみましょうか。

目を開く度、世界は色を塗り替える。
艶やかに流れ、移ろい、形さえ溶かす。
目玉は瞼を下ろし、そして上がる一瞬で別物に転じているようだった。世界が変わっているのか、それとも、俺の目玉が変化しているのか。こと俺にに限り、その疑問は馬鹿馬鹿しさに満ちた幼い問いかけにではなく、真実に行き着くための内なる設問へと至る。

見事に狙い澄ました中二的文章ですよね。普通に書こうと思えば書けるはずなのに狙ってこういう印象を持っている文章を書けるのはやっぱ見事だな〜と思ったりしました。

さらに

加えて血生臭い系の文章を引っ張ってきてみましょう。

自分自身の悲鳴も。痛い痛い! いだぃ! ちぎれる、ちぎれる! なんで俺を!
そうか俺を、勘違いしている。目の色を変えられるだけの能力をもっと大層なものと考えている。だから真っ先に俺を狙うんだ。墓穴を掘った。なんだこのクソ能力。とことん役に立たないじゃない「ぎゃいぃぃあいいいぃあいいいいいぃいい!」グリグリされた。ナイフが、腕の中をぐちゅぎゅちと掻き回した。たす、けて。誰でもいい、助けて! 俺を救ってくれよ!

こんな案配です。というか本編の6割くらいは石竜子少年が遭遇した非日常から来る異常なまでの緊張感と、惨めさとみっともなさをむき出しにした中学生の美意識を180度ひっくり返した世界の描写に費やしています。結果としていわゆるライトノベル的な夢や逆転の快楽とかとはほど遠い作品に仕上がっています。

でもまあ

それが良いと言えばいいんですけどね。
最初の印象をあらゆるキャラクターが裏切っていく感じは結構好きですね。作中にも「禁書」って言葉が出てくるんですが、この作品は入間人間の書いた「禁書シリーズ」って考えると当たらずとも遠からずという気がします。
ただしこの話では主人公にとって都合のいい能力も、可愛らしい味方も、守らなければいけない少女も出てこない。しかし異能の存在は巻き込まれた彼を容赦なく翻弄する・・・。そんな中で「ただの中学生」が今後「どんな中学生」になっていくのか・・・興味が湧かないと言えば嘘になるでしょう。
ヒロインはヒロインの資格を無くし、悪役も悪役としての振る舞いを止めてしまう。石竜子少年も生き残りたいという理由以外の抵抗の理由を持たないというふざけている位に生々しく中学生の物語になっています。
・・・中学生には決して届かない世界の裏側で渦巻いている暴力と狂気の世界を垣間見るために、本書を開いてみるのも、ありなんじゃないでしょうか。

総合

星4つかなあ。
まあリアルにしてもやっぱりライトノベルなので読者としてはそこに不思議な皮肉を感じざるを得ませんが、まあやっぱりライトノベルなんですね。入間人間氏は今一般レーベル(?)でも本を書いていますが、ラノベとのボーダーライン上の作品になっているかなという気がします。普通に中学生とかが読んだら結構胸が痛む作りになっているかも知れませんね。
でもまあ私は何気に楽しめたので次も買いそうです。みーまーシリーズにあった気に入らない言い回し(あの「嘘だけど」ってやつ。脳みそが混乱するんですよねー)も無いし、ああ、別にこの作者の話が何から何まで微妙に気に入らないとかっていう訳でもないんだなーなんて事を再確認しました。
という訳でイラストはブリキ氏ですが、上で書いたとおりイラストから受ける印象と作品の中身は真逆と言っていい程に血糊でヌルヌルしている作品なので、買うか買わないかを決める際にはイラストのことを頭から追い出した方が良いと思います。

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