テルミー きみがやろうしている事は

テルミー きみがやろうとしている事は (スーパーダッシュ文庫)

テルミー きみがやろうとしている事は (スーパーダッシュ文庫)

ストーリー

高校の一つのクラスが無くなってしまうという悲惨なバス事故で、残された者は二人だけいた。
一人は事故に遭いながらもただ一人生き残った少女・鬼塚輝美(きづかてるみ)。一人は偶然にも事故を起こしたバスに乗り損ねた少年・灰吹清隆(はいふききよたか)。クラスメイトであり幼馴染みであり、恋人でもあった桐生詩帆という少女を失った清隆は、それを幸運と思うことは決して出来なかった。悲しみと喪失感と同時に「なぜ自分は生きているのか」「なぜ自分は死ななかったのか」という理不尽かつ不合理とも言える罪悪感と虚無感に取り憑かれていた。
しかし、彼のそうした思いはただ一人だけ事故から生還した少女に出会った後、少しずつ変化していくことになる。彼女は何か奇妙な”気配”を連れて歩いていた。「安心していいよ――」と清隆に語りかけた輝美の姿には奇妙なことに、彼にとって大切な少女である詩帆の姿が重なって見えたのだった。二人の少女に共通する部分など無いように見えるのに。
それだけではない。輝美は亡くなったクラスメイトの少年の姿を背負って見える時すらあった。そして、他の少女の姿も。輝美が言うには彼女の中には「亡くなったクラスメイトの残された”想い”」が入り込んでいるのだという・・・。
その告白がどうしても嘘とは思えなかった清隆は、彼女がやろうとしている事の協力を申し出る。それは亡くなったクラスメイト達の心残りを一つ一つかなえていこうとするものだった・・・。
随分前に「超人間・岩村」でデビューした滝川廉治氏が二年間の沈黙の後に出版した作品がこの一冊です。

なんとも

独特な雰囲気を持っている作品ですね。物語の最初に最大の悲劇が用意されていて、残された二人は半ば直接的に、その関係者たちは半ば間接的に生きていた頃の少年少女たちの人生を追体験するような作品になっています。
・・・それがどんなに魅力的なキャラクターであっても、輝美と清隆以外は既に亡くなっているわけで・・・それがキャラクターの味わった喪失を読者に僅かなりとも伝えています。取り返しがつかないいくつもの想い。残された人々がそれを受け止めてどう歩き出すのか――明らかな再生の物語でもあるのですが、そこに派手な演出はありません。それぞれの死者に対しての相応しい鎮魂歌の流れる場面を繋ぎ合わせながら、物語はゆっくりと綴られていくことになります。
物語の書き出しは以下のような文章から始まります。

この物語には、二十六人の高校生の男女が登場する。
当然のようにこの物語は、二十六人の死と青春を描くものになる。

読者は

基本的には清隆という少年の視点で物語を眺めていくことになると思います。
輝美ももちろん主人公の一人なのですが、彼女は余りにも謎めいた少女として描かれるため、感情移入し続ける事は難しいと思えるからです。輝美の中には二十四人の”想い”が宿っているために、彼女の本心がはっきりと見えてこないためです。
既にいなくなってしまったクラスメイト達が一体どんな想いを残していったのかというのが物語に散りばめられた章ごとの謎だとすれば、輝美とはどんな少女で何を求めているのか、というのがストーリー全てを通じての秘密という事になるのでしょうか。読者は一つ一つ解決していく「心の残滓」を追いかけながら、輝美という大きな謎も追いかけることになります。
ただし、一つだけ確かだと思える事があります。それは作品の序盤にはっきりと明示されていることでもあります。

物語は、この生き残った二人の少年少女を中心に進んでいく。
そして必ずハッピーエンドになる。

ストーリーは

1章ごとに一人から二人の亡くなったクラスメイトの想いを追いかけるという丁寧な作りになっています。
現状では登場してきたクラスメイトのそれぞれにしっかりとページを費やして掘り下げているため、読んでいて飽きさせません。それどころか、亡くなってしまったキャラクターたちを丁寧に描写することこそが何よりの弔いであるとでも言うかのように、その生前の姿と残された想いが印象的なシーンとともに作品の中に挿入されているので、派手さはありませんが不思議と心に残ります。
また、清隆という少年も主張しすぎず、隠れすぎずという絶妙のポジショニングで物語を進めていく役に徹する形をとっているため、大事な本筋(死者の物語)を読み進めるのにあたってストレスを感じさせません。それについては謎めいたところのある少女の輝美にも同じ事が言えると思います。
この二人の主張が全面に押し出されていない分、物語の最後でどういう風になるのか興味がありますね。残念ながらこの話はこの一冊で完結という形にはなりませんので、このあと二人の関係がどういう風に変わっていくのか興味が出ました。

総合

うーん・・・悩ましいところですが星5つにしてみようか。
何しろ最近のライトノベルではなかなか見かけなくなってしまったほどの丁寧な作品作りに非常に好感を持ちました。登場人物達に派手さは一切ありませんし、決して愉快痛快な作品でもありません。強いて言えば暗い作品と言い切ってしまってもおかしくないです。
が、読み進めて感じるのは不思議な程に透き通った印象と、嫌みのない読了感です。作品を覆い尽くすほどの大きな悲劇を少しずつ癒していこうとする物語の淡い力を感じるとでも言いましょうか・・・読むと優しい気持ちになる、というのとは何か違うとは思いますが、暖かい何かがこの作品の中に込められているのは間違いないと思います。
イラストは七草氏です。氏の柔らかいタッチの絵柄がこの作品に合っていないとは思いませんが、イラスト自体にはあまり魅力を感じませんでした。この作品で表現されている感情を絵に表現するだけの能力がまだ無いというか・・・まあ私が素人のくせに酷い言いぐさではありますが、そんな感じです。ただし作品を邪魔するような出来ではないので、本全体の印象としては○じゃないでしょうか。

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