やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

ストーリー

比企谷八幡(ひきがやはちまん)は先生に目を付けられてしまった。
「高校生活を振り返って」という作文に於いて、平塚先生の主観で判断するとどうやら「反高校生的(反社会的?)」な文章を作り上げてしまったせいらしい。まあ高校生らしくねじくれた文章ではあるのだが、それが八幡の歩んでいる道でもあるため結構な感じで率直に本音がダダ漏れてしまったためである。
つまりそれは「リア充爆発しろ」の一言に集約されるものでありながら、実に理路整然とロンリーでアローンな我が身と我が青春を歌い上げた迷文になってしまったという訳だ。友達がいなくて何が悪い、友達が沢山いていわゆる青春を謳歌していると見なされている連中は悪である、と断じた内容が平塚先生に「NG」であると判断された訳である。八幡に言わせれば「ほっとけ」なのだが。
いずれにしても問題視された八幡は、何故か奉仕活動とやらをしなければならなくなったらしい。ほとんど脅迫に近い形で学校の特別棟と呼ばれるエリアに引きずられてきてしまった八幡がその先で出会ったのは、校内でも有名な一人の美少女が静かに読書をしている静謐な教室だった。

「……そんなところで気持ち悪い唸り声をあげてないで座ったら?」

少女は・・・美少女だが容赦なかった。ついでに言えば彼女――名前は雪ノ下雪乃(ゆきのしたゆきの)というのだが――八幡の事をギリギリ脊椎動物と認めていない位のゴミか何かと認識(つまり無関心)しており、デレる気配がなくついでに言えばツンを超えて刺々しいので八幡に言わせれば「ロボトミー手術でもしておけ」という女である。
が、いずれにしても八幡はこの雪ノ下という女としばらくの間行動をともにしなければならなくなったらしい。そんな八幡と雪ノ下が学校内で出会うアウトサイダー気味の人たちとドロップアウト的な出来事の幾つかを記したのが本書という事になる。
・・・という感じの作品ですね。既に2巻が出ていますし、評判も聞いていたのですが、確かに面白いです。

高二病って

八幡は作中で言われてたりしますが、私は彼の思想というか・・・考え方を熱く支持したくなりますね。
私自身ネットでもリアルでも何故か良く誤解を受けるんですが、「リア充乙」とか「いじめっ子だったっぽい」とか「友達多いよね?」って言われたりするものの、その真逆の人生を現在も突っ走っているので変に共感できてしまうんです。八幡的な立場でもそうですし、雪ノ下的な意味でもそうです。
彼らは孤独に見える自分を”ぼっち”という言葉で端的に表現しますし、それの何が不都合で何が悪いんだと問いますが、同じように感じてしまう部分が私にも大いにあるからです。持っているように見えるからと言って苦しみが少ないわけでもないし、逆に持っていなければ苦しくないという訳でもない。端から見れば恵まれたように見えるあれやこれが、どれだけの苦しみを本人に与えているかなんて他者には永遠に理解できない。
そうして築かれる誤解の山、山、山。いつしかそんな視線に理解の光を期待するのに疲れ果て、私たちは流れから緩やかに取り残されるように”ぼっち”になる。人間嫌いには寂しがり屋が多い・・・と言ったりします。自分から人を嫌っているくせに寂しいの? と言われそうですが、確かにそうなのですよ。望んで何かを嫌う人などいないのです。

なんて

私の怨念っぽいものを交えて感想を書くとこの本も青春の怨念ドロドロストーリーって感じに思えてしまいますが、それはないです。一歩間違えたらシリアス一辺倒になりそうな物語をキャラクターの性格と軽妙で引き出しの多い言葉遣いでポップな作品に仕上げているといえますね。

「程度が違うってどういう意味だ……。独りぽっちにかけては俺も一家言ある。ぼっちマイスターと言われてもいいくらいだ。むしろ、お前程度でぼっちを語るとか片腹痛いよ?」
「何なのかしら……、この悲壮感漂う頼りがいは……」
雪ノ下は驚愕と呆れに満ちた顔で俺を見た。その表情を引き出したことに満足感を覚え、俺は勝ち誇ったように言う。
「人に好かれるくせにぼっちを名乗るとかぼっちの風上にも置けねぇな」
だが、雪ノ下は、ふっとバカにしくさった表情で笑った。
「短絡的な発想ね。脊髄の反射だけで生きているのかしら。人に好かれるということがどういうことか理解している? ――ああ、そういう経験がなかったのよね。こちらの配慮が足りなかったわ。ごめんなさい」
「配慮するなら最後まで配慮しろよ……」
慇懃無礼とでも言うのだろうか。やっぱりとても嫌な奴である

うーん、何か勝負の仕方を徹底的に間違っているというか、病人が「俺の方が症状が重い」というテーマで言い合いをしているというかそんな感じに思えますが、やっぱり独特のリズム感と言葉選びが気持ちよく、楽しく読めますね。内容だけひっぱりだすと暗い会話のはずなんですけど。

路線とすれば

同じガガガ文庫で出版された田中ロミオの「AURA」にあったような”青春の目をそらしたい部分”を扱った作品です。
でも同じように結構エグいことを書いている(各種生々しいエピソードを取りそろえております)割には、あの作品よりもずっとユーモアがありますけどね。あちらが最終的にシリアス方面に着陸点を求めたのに対し、こちらはコメディを交えて書き上げることに腐心しているというのも大きいと思います。

ただ一人黒板の前に立たされて、その周囲を同級生がぐるりと囲み「しゃーざーい、しゃーざーい」と手拍子とともにシュプレヒコールを上げたあの地獄にも似た光景。
……あれは本当にきつかった。後にも先にも学校で泣いたのはあれだけだ。
いや、俺のことはいい。

ぐうっ!

ああ、この人を馬鹿にしくさった視線には覚えがあるわ。確かにクラスの女子がこんな汚物を見るような目つきでときどき俺を見る。あのサッカー部なんかとよくつるんでいる連中のうちの一人なんだろう。
なんだ。じゃあ俺の敵じゃねえか。気を使って損した。
「……このビッチめ」

・・・こんなこと言った事なんて無いない――――あるか。

「かっ、内輪ノリってやつね」
「なによ、その反応。感じ悪。そういうの嫌いなわけ?」
「内輪ノリとか内輪ウケとか嫌いに決まってんだろ。あ、内輪もめは大好きだ。なぜなら俺は内輪にいないからなっ!」
「理由が悲しい上に性格が下衆だ!!」
ほっとけ。

・・・まあこんな感じですか・・・。なんだか昔の私というか今現在の私がどこか傷ついたような気がしますけど、流石にね、三十も後半バリバリなオッサンがこんな事で傷ついたりしないと思うんで幻覚です。幻痛です。気のせいともいいます。
・・・痛くないと言えば痛くなくなる、そんなテクニックを身につけた中年は背中で泣くんですよ?

総合

星5つで確定ですね!
クソ長いタイトルのお陰でどうせ軟派な話に違いないぜー、読む気が起きねえんだよバーカ、とか思ってたら結構しっかりたっぷり話が作られていて実に楽しい本でした。馬鹿は私だったという事ですね!
心の柔らかいところも固いところも満遍なく刺激して、挙げ句の果てに青春的にちょっと気持ちのよいエンディングが用意されているとなればこれはもう買わないとダメでしょう。今ちょうど2巻も出てますしね。読み始めるのに最適と言える時期かも知れません。
この人の前シリーズは全く読まなかったのですが、これだけの作品が書ける人だったんですね・・・ガガガ文庫は良い新人を拾って育ててますな。さすがは大手と言ったところでしょうか。
イラストはぽんかん⑧氏です。久しぶりに良い仕事をする絵師さんに出会ったという感じですね。カラーが綺麗なのはもちろんですが、何より白黒ページの表現力の豊かさを評価したいですね。どうでもいいページとどうでもいいシーンを良く絵にしたなあと思ったりしました。アリですね、はい。
ところで作中で八幡がラノベ作家志望の中二病高校生に「まぁ、大事なのはイラストだから、中身なんてあんまり気にすんなよ」というラノベ作家に対しての破滅的な一言を投げかけています。・・・前作で何かあったんでしょうかね・・・。

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