寄生彼女サナ

寄生彼女サナ (ガガガ文庫)

寄生彼女サナ (ガガガ文庫)

ストーリー

増川唐人(ますかわからと)はどこにでもいそうな高校生である。
父親は生物学の権威であったが家庭を顧みないタイプの人間だったので、従姉妹の増川桜が入り浸って唐人の世話を焼いたり寝込みを襲おうとしたりする毎日を適当に過ごしていた。どちらかと言えば唐人は一人を好む性質だったので、他者の介入の少ない今の生活をそれなりに気に入っているようでもあった。
が、ある朝学校に遅刻しそうになった事を切っ掛けに唐人の人生は一変する。桜に手当たり次第に口の中へ放り込まれた朝食の中に、何やら怪しげなモノが混ざっていたようなのだ。お陰で一日中奇妙な腹痛に悩まされることになる唐人。しかしその日はなんとか乗り切ったものの、一人になった夜に痛みのピークが訪れたのだった。
激痛の走る部分を見ると、異常なまでに膨張した腹部がそこにはあった。死を意識せざるを得ないほどの激痛。そして唐人が見たのは、自分の腹部からしゅるしゅると飛び出してくる紐状の何かだった・・・。現実離れした光景について行けない唐人だったが、腹から飛び出てきた何かはみるみるうちに姿を変えて、一人の女の子の姿へと変貌したのだった。

「今日からお前の腹に寄生することになった! よろしくな!」

すっぽんぽんのまま陽気にそう告げた謎生物は自分をサナと名乗った。何が起きているのか分からない唐人が一つ一つ会話で疑問を埋めていくと・・・サナはどうやら寄生虫の一種らしかった。意識を持った寄生虫”パラシスタンス”だという。こうして唐人とサナの奇妙な同居生活が始まった。
・・・という感じで始まるラノベです。荒削りで良いところも悪いところもある作品ですが、まあ読んで良かったかな・・・? というガガガ文庫の優秀賞受賞作品です。

こりゃまた

なんとも奇妙な出来映えの作品をよんじゃったなあー。
ガガガ文庫の優秀賞ということなので特に何も考えずに(財布の中身は気にしましたけど)レジに持っていって、読んでみたという状態なので、もしも購入動機を聞かれたら「た、太陽が、黄色かったから?」とかしか答えられないような所から読者としての私はスタートしているんですが、そんな裏が無いような私でもなんとも混乱するような作品でした。
という訳でこれから色々と感想を書いていくわけですが、もしも、なんらかの偶然が重なって作者の人が読んじゃった場合、なるべく傷つかないで下さい。いや、別に悪口並べ立てようって訳じゃないんですが、人間何で苦しむか分からないですからね・・・。

というわけで

作品の内容ですが。
寄生彼女って、あーパラサイトシングルとかそういう・・・じゃなくてリアルに寄生虫的な意味なのね? ミギーなのね? ってアイデアは面白いと思いましたね。まあ腹からニュルって出てくるのは一体どうしたもんかとか思ったりもしましたが、ユニークであることは間違いないと思います。
「エイリアン」+「寄生獣」+「親方!腹から女の子が!」悪魔合体の結果この世に生まれ落ちたという事ですか。・・・まあいつか誰かがやってもおかしくない感じではありますが、生き馬の目を抜くラノベ業界では先にやったもん勝ちです。これはアリですね。
出てきた寄生虫が女の子の姿を取って、しかも無知で純真なキャラクターであるというのは独特とは言い難いですが、十分セーフでしょう。

「世代を超えて、腸越えて! 腹から飛び出て宿主を守る!」
少女はすうと息を吸い込んでからにっこりと笑っていった。
日本海裂頭条虫のパラシスタンス、サナだ! 突然だが、今日からお前の腹に寄生することになった! よろしくな!」
そうやって、少女は剥き出しの胸を誇るように張ったのだった。

・・・目黒の寄生虫博物館にそのニョロニョロとした姿が陳列されていたように記憶してるんですが・・・まあ詰まるところサナダムシです。ヒロインがサナダムシというは・・・あ、愛せるか俺・・・? と頭をちょっと抱えたという事をここに記録しておきます。
ちなみに弱点は(ネタバレだけど)トイレ。

「い、一応! 寄生虫から進化した者として……水洗便所は本能に刻み込まれた恐怖の場所なんだ……! かつて数えきれぬほどの同類がそこから流されて無残に死んでいった……も、もしそんなところに入ったら……本能のトラウマがよみがえって……ひ、紐状にもどるぞ!」

別に水洗に限った話じゃないんじゃないかな〜とか思わなくもないですが、それはそれとしてサナって花京院のスタンドっぽいですね。あるいは徐倫ストーンオーシャン

キャラクター視点で言えば

なかなか魅力的な登場人物は他にもいますね。
その筆頭が主人公の従姉妹であり妹的なポジションであり一年中発情している少し変態入った娘・増川桜でしょうか。性的な情報から遠ざけられて育てられてきた結果、ある時そのての情報からの守りが決壊したその反動で、非常に性的なことにアグレッシブになってしまったという従姉妹です。・・・エロマンガならもう一本描き上がったも同然の設定ですね・・・。

「いやっほおおおおお! お兄ちゃんの荒ぶる海綿体発見んんん!」

新しい朝の儀式ですかね・・・。

「お兄ちゃんの貞操が、危ないいいいいいいいいいいい! お兄ちゃんの、童貞! お兄ちゃんの童貞、食べたかったよおおおおおおおお」

「さ、桜ちゃん、行こー、部活行こー……」
「いやだあああだああああああ! 四十八手暗唱するうううううう!」

童貞が食べられないような事態が発生すると四十八手を暗唱するという行動につながるようです。
以下はメール。

『大丈夫? お兄ちゃんの童貞だよ?』
『ポイ捨ての前によく考えて! 童貞一時、非童貞一生』

「大丈夫、ファミ通の攻略本だよ」的な事を言われても困る。つーか男の童貞ってそんな食いたいものかなー……。まあ男の中にも処女が大好きという連中がいますので、女性でそういう嗜好をもった人がいても驚かないですが、これ以上ピックアップすると誰がメインヒロインなのか良く分からなくなるのでこの辺で。

他にも

変な生徒会長やら変な同級生とか色々と出てきます。
同級生の方は個人的にストライク感がありましたが、生徒会長は派手な登場の割に何しに出てきたんだが分かりませんね! まあページを埋めるためのキャラクターとして都合が良かったというのは想像に難くないですが、中盤を賑やかにしただけで本筋に全く絡んでこないというのはちょっと使い捨てが過ぎるかな・・・とか思いました。
あと・・・これはまあ仕方がない事なのかも知れませんが、ちょっと主人公の描写にバラツキが散見されるなあと思いました。ある時は中二病っぽさ全開の異能バトル主人公っぽくなってしまったり(まあ理由はあるんですが)、ある時はハーレムラブコメにありがちなツッコミスタイルになっていたり、ある時はほのぼの系作品の穏やかさを印象づけるキャラクターになっちゃったりしてます。個人的にはもう少しキャラクターの作りに気を使って欲しいところです。
・・・これはあくまで想像ですが、賞に応募するにあたってシリアスやらコメディやらバトルものやらを検討して推敲に推敲を重ねた結果、色々と混ざっちゃったのかな〜という印象です。あるいは面白くしようとして何もかも詰め込もうとした結果なのかも知れませんが。
最初から「こういう作品を書こう!」として書き上げた作品と、途中から方向転換して修正した作品では、やっぱりどこかしら出来上がりの姿が変わってくるものだと思いますので、今後は出来上がりを可能な限り完全に近い形でイメージしてから書き始めると良いんじゃないかと思います。

総合

デビュー作としては悪くないと思いますが、星は沢山上げられませんね・・・3つかな。
ヒロインのサナが従姉妹の桜に喰われてる感じもありますし、人に寄生するような危険物を一般家庭のそんな所に置いておくなよと言いたくなるような展開をしますし、保健室の先生もなんかちょっと良い事言っているような気がするけど普通そんな反応しないと思いますし・・・うーん、荒削りさがあちこちで目立つ作品だったことは間違いないと思います。
あと個人的にはラストバトルいらなかったんじゃないかなーとか思いました。最後の盛り上がるシーンが主人公の助けでサナが○○○に○されるピンチを乗り越えるところ、というのも良かったんじゃないでしょうか? だってそんな馬鹿らしいピンチを乗り越えて深まる絆というのがクライマックスなんて他のラノベには無いと思うんですけどね、どうでしょう?
でもまあ全体で見れば荒削りながらも魅力も感じたと言うことで、今後に期待したいところです。2巻とか出ますかね? まあ売り上げ次第だと思いますが、出たら読んでみようとは思います。
イラストは瑠奈璃亜氏です。カラー、白黒ともに綺麗で丁寧ですが、人物のアップしか描けないという印象を持ってしまいましたね。もう少し奥行きや周りの描写とかもあるといいんですが。なんかエロラノベの挿絵を思い出してしまいました・・・エロい絵は無いんですけどね。なんか、構図とか。

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