魔弾の王と戦姫

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (MF文庫J)

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (MF文庫J)

ストーリー

ブリューヌ王国の外れ、森の深い土地にアルザスと呼ばれる土地があった。そこに暮らすティグルヴルムド=ヴォルン(ティグル)は伯爵家の嫡男であり、このアルザスを統治している立場にあるが、若干十六歳の少年でもある。しかし彼は父の後を継いでの堅実な統治によって民からの信望も篤く、穏やかな暮らしを続けていた。
伯爵家と言っても昔は狩人であったというヴォルン家は新興貴族であり田舎貴族でもある。その結果としてティグルには一切堅苦しいところがなく、質素な生活をするどこにでもいそうな若者であった。ただし――人一倍抜きんでた弓術と狩りの腕を除いては。
しかし、そのような田舎の貴族も王から戦争のための召集ともなれば無視するわけにはいかない。
大貴族の率いる戦力からすれば誤差と言ってしまってもいい僅か三百の兵士を率いて戦争へ参加することになったティグルは、赴いた戦地にてこのたびの戦の相手となる”ジスタートの七戦姫”の話を耳にする。『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』との異名を持つエレオノーラ・ヴィルターリア(エレナ)という名前の常勝の姫だという。
しかし、いかに優れた力を持つ戦姫と言えど彼我の戦力差は圧倒的とも言える五倍。負けるわけもない数をそろえたブリューヌ軍に緊張の気配は見られなかった。しかし、その隙を戦姫は見逃さなかった。そして戦姫による奇襲は、気のゆるんだブリューヌ軍に致命的な混乱を巻き起こしたのだった。
戦いの後に気を失っていたティグルが目にしたのは、敗走したブリューヌ軍と、勝敗の決した戦場を悠然と歩む戦姫の姿だった。恐らく追撃に移っているであろうジスタート軍を足止めするそのためだけに、ティグルは一人弓を手に戦姫に無謀な戦いを挑むのだった・・・。
というファンタジー的舞台で始まるライトノベル作品です。

この作家の

本をちゃんと読むのは富士見ファンタジアから出版されてた「ライタークロイス」以来なんですが、なんか気がついたらまた中世ファンタジー系とでも言うような似た作品を手に取ってしまっていました。いや、別に後悔してるとかじゃなくて、やっぱり一回楽しんだ作品と同じ系列を無意識に選んじゃうものなんだなと。やっぱり同じくらい楽しみたいものですもんね。
という訳でのこのシリーズですが、主人公が優れた弓使いというのはそれ程目新しいという訳ではないですけど、やりようによっては上手いことオリジナリティを出していけるかも知れないなとか思いました。そういや「ライタークロイス」も主人公が剣ではなくて槍使いでしたね。
それに、国土の成り立ちやそこから進歩した戦争の進め方の問題で弓兵や弓術そのものが軽く見られているという作中の設定は物語を盛り上げるエッセンスとして味があるように思います。

それと

敵方に一騎当千を実現するほどの超絶的な戦闘能力を持った戦姫(ヴァナディース)を配置しています。なんかこれは魅力を感じる設定でした。特にそれが可愛らしくも凛々しすぎる女の子ともなればなおさらです。
戦姫はかなり作中のパワーバランスを壊す設定なんですが、主人公をさっさと戦姫の捕虜にしてしまうことで正面衝突を最初の一回(一騎打ち)で終わりにしてしまって、上手いこと話をラノベ的に盛り上げるのに使っていて上手いです。
実質的な話のスタートは主人公のティグルが敵国の捕虜になってしまうところからですからね。ティグルからすればいきなりのアウェー全開な訳ですが、敵国から自国を眺めることで見えてくる問題も多々あったり、想像以上に優れた統治を行っている戦姫の支配領土を見ることで、地方貴族といえども土地を治めているティグルとしては勉強になることが沢山ある・・・。
しかも戦姫にその弓の力を見込まれた結果の捕虜であり、好待遇での誘いがあったりするともなれば心も動くんでしょうが、故郷を捨てられないティグルという若者は、やっぱりファンタジーものの主人公としての資格があるという事なんでしょうね。

しかし・・・

なんというんですかね、この人の本って感想を書き辛いんですよね・・・。
作風で言えば良い意味で萌えに走りきらないんですが、かといって萌えを完全に切り離せる訳でもないんですよね。リアリティを捨て切る訳でも無いんですが、リアルと言うほどの中世感でもないという・・・全体としては面白いんですけど、パーツで抜き出すと魅力がイマイチ伝わらないという感想書き泣かせ(私だけか?)な作家さんなんですよ。
こういう作風の人って他であんまり出くわしたことがないなあ・・・。例えばヒロインであり一応敵でもある戦姫エレンの印象的なセリフでも抜き出しておきたいんですけど、とんと思いつかないという・・・出版元がMF文庫だという事を考えればとんでもない作家さんなんじゃないかという気がしてきました。
なんですかね、ヒロインたちは「あっちの行動と、こっちで起こった行動を組み合わせてみると、ギャップがあって凄く可愛い」とかそういう見せ方なんです。だから一カ所だけとか部分単位で抜き出してもあんまりその良さが伝わってくれないんですよね。

話の方は

捕虜になってしまったティグルと、彼の弓に惚れ込んだ戦姫エレン、公私に渡ってエレンを補佐する一見堅物の女騎士リム、ティグルの帰りを待ちわびる故郷アルサスの面々と、ティグルに昔から仕え続ける妹のような可愛い娘のティッタ、といった面々を中心に進みます。
さらに話が進んでいくと、序盤で起こった戦争に敗北したことで内部に潜んでいた問題が噴出し始めたティグルの故国であるブリューヌ王国と、七人もの戦姫を擁しながらも版図の拡大を行えないジスタート王国に共通する「仕えるに値する王の不在」という構図が見えてきます。そうするとタイトルに含まれる「魔弾の王」という言葉が気になってくるのですが・・・どうなるんですかね。
よく考えてみると「ライタークロイス」でも侍女と王女の恋の鞘当てが楽しかったですが、今回もどうやらエレンがティグルに向ける視線は物語後半になればなるほど徐々に怪しくなりますし、ティッタはもうティグルが帰ってくるためには水垢離でもお百度参りでもなんでもやってしまう程にガチなので、基本この二人が衝突するんでしょうねぇ・・・モテる男はいいなあ・・・。

総合

うーん? 星3つ、いやまあ4つ・・・なん?
あくまでMF文庫から出版されているファンタジー系戦記ものとしてはという条件付きですが、ライトノベル読者の比較的広い層が安心して楽しめる作りになっているんじゃないかと思いますね(萌えとノリに走りきらないという意味で)。無茶な設定がありすぎて読んでいる最中で心が萎えてしまうような事もなく、最後まで一定のペースで楽しむことが出来ました。
実はアマゾンのレビューが好評だったみたいだから買ってみる気になったという珍しい本なんですが、まあ頷ける出来だったと思います。本格ファンタジーとか本格戦記ものとか言ったら完全に嘘ですが、ライトノベルならそれに萌えとご都合主義を足して一冊書き上がるといういかにもラノベらしい作品でした。2巻にも期待したいところですね。
イラストはよし☆ヲ氏です。が、全然魅力を感じなかったですね。特別手を抜いているという感じはしませんでしたが、男性キャラ(絵になっているのはティグルだけですが)の優男っぷりはいっそマヌケに見えましたし、女の子の絵にも個性が感じられなくて「チェンジ」と言いたくなりましたね。まあ単に私の絵の好みの問題なんでしょうけど・・・。

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