神様のメモ帳(7)
- 作者: 杉井光,岸田メル
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
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ストーリー
部屋からネットを通じて世界に深く潜り、残酷なまでの事実を掘り出して、死者の言葉を代弁する。そんな自称ニート探偵のひきこもりの少女・アリス。そしてそのアリスの助手という奇妙な立場に収まっているやはりニート気味な少年・藤島鳴海。彼らは街の片隅の「ラーメンはなまる」の側で小さく目立たず生きていた。ある時そんなニート探偵の元に紹介で一人の少女が訪れる。その少女の姿を鳴海が見たことがあった。彼女はただいま絶賛売り出し中のアイドル・夏月ユイその人だった。彼女は昔生き別れになった自分の父親がホームレスになって公園にいたところを偶然見かけたというのだ。そして一度で良いから父親と話をしてみたいのだという。
そのホームレスはギンジさんと呼ばれる老人で、鳴海や他のニート探偵団も良く知っている名前の通ったホームレスだった。なので見つけるのは容易かったが、そこから先の「彼女と話をさせる」という所を実現するのは難しいと思われた。彼は一度は何もかも捨てて逃げてしまったのだから。
いずれにしてもアリスはユイの依頼を受け、そして鳴海は助手としてギンジさんに接触をし始めるのだが、そこから思いも寄らぬ事件が起こることで、些細なはずの依頼は大きな出来事へと変貌していく・・・。
というような展開をするシリーズ7巻です。アニメ化もしてるみたいですね。見たことないんですが。
うーん
ニート探偵の話を読むのがなんだか凄く久しぶりのような気がします。なんでですかね・・・って考えてて思いついたのが一つ。作中の季節が真冬じゃねえかって事です。なんだかそのせいで沢山待たされたような気がしてるんでしょうね。季節のズレた半年ばかり余計に。
・・・って思ってたんですけどね、もっと重大な理由を発見しました。俺5巻と6巻の感想書いてねえじゃん。そりゃなんか久しぶりって気持ちになるよな! いや読んでますよ読んでるはずですよ、だって両方とも本棚にちゃんとならんでるもん読んでるもん。でも確か長編はなかった・・・なかったよね?
まあ細かいことはいいんですけど、久しぶりって感じがしたのは確かですね。鳴海の当たり前のようで少し誠実すぎる思考に触れるのは相変わらず心地よかった事は書いておかないとまずいですね。それはアリスもそうですが・・・やっぱりこの作品の魅力ってそのまま鳴海の魅力だと思うんですよ。もっと大まかに言うと野郎どもの魅力で持っている作品と言えそうです。ライトノベルとしては希少種なんですが、人気のある作品は必ず主役やサブの野郎が魅力的なんですよね。
だからといって
ヒロインの魅力がない訳じゃありませんけど。
でも正直言って、ヒロインのアリスの魅力が鳴海の魅力に負けているところがあると思います。まあ視点が鳴海固定なんで作品そのものが鳴海成分タップリになっちゃうんでアリスはどうしようもなく不利なんですけどね。まあ6:4、いや7:3位で鳴海の勝ちかな?
こんな事もしも作中のアリスに言えたらもの凄い勢いで罵倒されそうな気がしますね。・・・ん? あれ? あれれ? 意外にも・・・そうでもないのかな? なんかかんだ言って鳴海の魅力を一番理解しているのはアリスなんでしょうから、赤くなって沈黙してしまいそうな気もしますね。
今回もアリスは死者の代弁者の役割を果たしている時以外は鳴海にダダ甘えしまくっているので、もう完全に【アリス → 鳴海】であり下手すると【鳴海 > ドクターペッパー】なんですけど、微笑ましく見える一方なのでやっぱり楽しいですねこの本。
「うん、まあ、そんな大勢の観てる前に出るのはよくないよね。アリスには、ずっと僕だけの探偵でいてもらいたいよ」
これはアリスのTVデビューを勝手に想像した挙げ句、無理があると考えた鳴海が口走った台詞だったりするんですが、何考えてるんでしょうかこの女殺しは。結果アリスは大慌てです。
「きっ、きみだけのっ? な、ななななんだそれはっ」
「なんだそれは、って……本音を言っただけだよ」僕以外の人間といつもあの調子で話していたら絶対に相手を怒らせると思うよ?
アリスは珍しく上目遣いで僕の方を見つめながら、探り探りの声で言った。
「……きみは、ほ、ほんとうに、ぼくのことをそんなふうに思っていたのかい」
「いや、悪かったよ正直に言っちゃって」
「なんで謝るんだッ」
「なんで怒るんだよっ!」
この手の事になると勝手に知性が暴走して断崖を渡るはしごを架けちゃうのがアリスで、向こう岸に渡るのに十分なはしごが架かったと思ったタイミングで無意識にはしご外すのが鳴海ですね。実に可愛いやりとりですよ本当。
今回の事件も
この本って分類するとしたらミステリーのカテゴリーに入るんでしょうか? なんか違うような気もするんですよね。「神様のメモ帳」という独立したカテゴリーがあるような気がするというか・・・まあつまり、今回も見事なまでの神様のメモ帳クオリティでした。
地味なんですけど当事者にとってはどこまでも大切な出来事を中心に据えて語られる物語。そして伏せられた一片の真実がアリスによって明らかにされる時、それは残った人たちの心に美しいスライドのように淡い光を残すのです。このなんとも言えない読了感を作り出してくれるこの物語の作りはやっぱり一流の証だと思いますね。派手さはなくても心のどこかに忍び込んでくるような物語を書けるって凄いことだと思います。
こういう出来の作品ばかりがライトノベルとして出版されていれば、もっともっと盛り上がるんだろうにな〜なんて思ったりするんですが、まあ無い物ねだりですよね・・・お気楽なラブコメとかもなくなったら困りますし。玉石混淆なのが魅力なんだって分かってるんですけど、読了後についそういう事を言いたくなる出来だったと思って下さい。
総合
星5つですね。
あら? 意外にもこのシリーズでは星5つが二回目? ・・・そうそう、1巻の時とかってあの「GOSIC」と被っている気配がビンビンしたので星が減ってたんだった。アリスとヴィクトリカが似てるとか書いて星を少なくした記憶があります。
が、ここに至っては流石に似ていると言うつもりはないですね。巻数を重ねて見事なオリジナリティを獲得していると思います。表向きのキャラの作りが似ていても、ちゃんとキャラの内面描写を丁寧に積み重ねて行けば全く違う空気を醸せるようになるんだな、と思えた一冊でした。こんな風にキャラクターの印象を塗り替えられたのは初めての経験かも知れません。
また一つ物語を重ねた鳴海とアリス。この二人が歩いていく先ってどんな未来なんですかね。でも一番気になるのは鳴海ってまだ高校生だよねって事なんですが。巻が進むにつれて学校生活が全然想像つかないキャラクターになってきてしまってますが、彼の学校生活は大丈夫なんでしょうか。いらん心配ですけど、アリスのいない所で一度派手に青春してもらって、アリスがいつも以上にやきもきしまくる作品とかも読んでみたい気がします。
イラストは安心の岸田メル氏です。もう特に何も言う必要はないですよね。カラー、白黒、どちらも丁寧で素晴らしいです。そうそう、神様のメモ帳7巻を記念して、岸田メル氏が書き下ろしのアリスのイラストをアップしていた記憶があります・・・そうそう、コレ! 見ておかないとなんか損ですよ!*1
*1:嘘だけど。