東京レイヴンズ(5)days in nest II & GIRL AGAIN

ストーリー

陰陽塾に通う土御門春虎土御門夏目の前に劇的な再登場を果たしたかつての敵・大連寺鈴鹿
その鈴鹿に夏目の秘密がばれてしまったことによって、針のむしろのような生活を余儀なくされていた二人だった。正確には、以前にあったおもしろおかしい出来事を洗いざらい話させられるという精神攻撃をずーっと受け続けていた訳である。お陰で学校生活がすっかりしょぼくれたものになってしまい、春虎も夏目も完全に精彩を欠いていた。正直二人そろって登校拒否をしたくなる有様と言えば、どれだけ追い詰められているか分かってもらえるだろう。
が、そんな二人につかの間の休息とも言える時間が訪れる。泊まりがけの実技合宿である。最近は土日まで何かと理由をつけて鈴鹿に呼び出しを喰っていた二人だったので、この合宿はまさに渡りに船。合宿そのものだって充分に過酷なものであると知らされていたのだが、久しぶりに気楽に過ごせる事もあって二人だけがクラスで舞い上がっていた。
しかし合宿がスタートするとそこには二人の最も見たくなかった人影が・・・。ぐったりとする春虎と夏目だったが、訳ありであとから合宿に合流した阿刀冬児が持ち込んだ情報から、こんがらがっていた鈴鹿との関係にある種の変化が見え始める。それが良い変化なのか悪い変化なのか、現時点では誰も分からなかったが、やはりクラスメイトの倉橋京子の暗躍もあって鈴鹿が年相応な姿を見せ始めたのは確かなようだった。
・・・という感じで展開する5巻です。陰陽塾の結束強化がポイントになる一冊でしょうかね。

本作は

雑誌連載された短編4本と書き下ろしの中編1本が含まれてます。
4巻が「途中に短編を挟むことになった経緯」から始まって各短編が配置されるという構成になっていたのに対し、この5巻はその後ろ側を補う形で続けて短編を配置し、その後に長編本編の流れに戻って話が進むという構成になっています。
わざわざ言うのもなんですけど見事な見せ方ですね。短編を本編の時間軸にこうした形で無理なく挟み込んだ作品って他にあったかな・・・出版社が違うけれど「円環少女」の7巻とかがそんな感じでしたか。でもあれは短編の数が少なかったから出来た技ですしね。この4〜5巻のように8本もの短編を挟んだ作品は多分ないんじゃないかな・・・。

ともかく

この5巻も春虎たちが2年になった後に(大連寺鈴鹿に脅されて)振り返る形で1年の時に起こったアホらしい出来事で短編の方は埋まってます。書き下ろし長編との雰囲気の違いが凄いというか、はっきり言って夏目無双という感じの短編集です。どんだけ夏目推しなんだよ! とか感じなくもなかったんですが、可愛いので仕方がないというか・・・。
でもあれですよ、夏目ってどう考えても怖い女の子ですよね・・・読者にとっては(あるいは一部の作中人物にとっても)北斗=夏目ってのは明らかな事実であって、変装(?)してまで付きまとっているという事実がもう既に結構アレですし、さらには夏目として春虎に接するようになってから春虎にやらかしたアレやコレを考える時、ちょっと素に戻ると正直寒気が止まりません! ストーカー気質というか、いやもうはっきりとストーカーというか、いやもういっそ変態と言ってしまった方がいいのかも知れませんですね。
特に今回含まれる短編「仁義なきしっぽ」「コールド・メモリー・イン・ダーク」の2編はアブナイですよ! 前者は「その発想と吹っ切れっぷりと解放されたデレデレが怖い」し、後者は「才能と思い込みとディープラブが呼び出す旧支配者が怖い」って感じで、もう果てしなく怖いです。
・・・まあその怖さがそのまま夏目の可愛らしさなんですけどね・・・愛に乾いていた自分の学生生活を振り返ると、このラノベから夏目エキスがしみ出して、ひび割れた青春時代の心の大地に染みこんでいってしまうのを感じます。どう考えても劇薬扱いの夏目エキスを染みこませて良いもんなのかどうなのかちょっと心配ですが・・・普通の女の子じゃ満足できないカラダになりそうで怖いですね!

中編の方は

春虎たち一行が陰陽塾の実技合宿であれこれと苦労する話になっています。
が、実際の本筋は合宿とかお風呂イベントとかにある訳ではなくて、4巻から訳ありで復帰した鈴鹿との関係性を進展(回復?)させるために用意された作品に仕上がっています。夏目の秘密を知った鈴鹿による暴虐の振る舞いこそがここ2冊に及ぶ短編の語りだった(という設定)な訳ですが、この中編をもって「ふてくされた鈴鹿による嫌がらせ」が終了する形になっているみたいです。
鈴鹿は自分だけが知っている事実と現状を組み合わせた結果、自分にとって不快な事実を想定してしまい、結果として春虎や夏目に嫌がらせをしていた訳ですが、その誤解が一部解けて「まだ目がある」と思い直すことによって、関係が改善するという展開になっています。
まあ春虎にとっては特に何も変わらず女性関係で混沌とした状況が続くわけですが、自業自得なので放置の方向です。ですので正直万年朴念仁男はどうでも良くて、私が個人的に一番不憫だと思っているのは、倉橋京子その人なんですけどね! 早いとこ秘密を解禁してあげないと、一度しかない彼女の青春が凄く不毛なものになっちゃうよ! 特に今回活躍が目立つので余計に涙を誘います・・・。

総合

安心して面白いですね。星4つは固いです。
短編の砕けきった雰囲気と、中編のシリアスを多く含む展開が混ざり合っていて、一冊通して読むと非常に上手く緩急のついた作品として仕上がっていると思います。また、冬児の引っ張り出した話題を切っ掛けに陰陽塾の面々の結束強化と秘密の共有なんかが積極的に行われることになって、否が応でもこれから先の激闘を想像させてくれるところも憎い作りですね。こうした下準備をしておかないと満足に戦えない相手という事なんでしょうからね。
それに加え、激闘の3巻で異様な雰囲気を放っていた独立祓魔官の鏡を一部再登場させることによって、現在の陰陽塾が外からどう見えているのか、を端的に表現しているシーンなんかもあります。これは正直そのまま読者の感じている疑問につながる部分でもありますので、それを敢えて理路整然と並べ立てたところに作者の何らかの意図を感じずにはいられませんね。・・・そもそも夏目が男のふりをして学校に通わなくちゃいけないのだって胡散臭すぎる訳ですから・・・。とにかく今後の展開に期待ですね。
イラストはすみ兵氏です。正直1巻とかの頃は大丈夫かいなって感じでしたが、段々良くなってきている気がしますね。動きや奥行きのある絵がもう少し欲しいところですが、その辺りは今後の変化に期待しましょうかね。

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