エアリエル 〜緋翼は風に踊る〜

エアリエル―緋翼は風に踊る (電撃文庫)

エアリエル―緋翼は風に踊る (電撃文庫)

ストーリー

遠い異国から親の商売の道具としてここ、ストーリア王国に連れてこられた少年がいた。彼の名前はマコト・カシマ。兵器商人を親に持つ我が身の不幸を感じながら、唯一の趣味とも言える写真を撮ることを楽しみにして日々を過ごしていた。
そんな時、偶然反政府勢力”レヴァンテ”の戦闘に巻き込まれたマコトは、そのなかで王国軍に”赤い亡霊”と呼ばれている一騎当千の飛行機乗りに出会うことになるのだが、なんとその飛行機乗りは足の不自由な女の子だった。彼女の名前はミリアム・トラエッタ。事故で足の自由を失いながらも持ち前の意地で空を飛ぶ翼を手にした少女である。
そしてまた、戦闘のどさくさで反政府勢力に身柄を拘束されたマコトは、なんの因果か写真の腕を買われて反政府勢力の広報用の写真を撮ることを求められてしまった。写真に対して感じている魅力と、放っておけばいつか訪れるであろう武器商人の息子としての運命に嫌気がさしていたマコトは、その申し出を受けることにする。そしてそれはミリアムに近づくことを意味していた。
マコトは他で見たことの無いような美しさを持ったミリアムに魅せられるままに、反政府勢力に協力していくことになるのだが・・・。
という感じで始まる空戦と恋の物語の1巻です。随分前に買った一冊で今日の今日まで積んでいました。そうやって私が停滞していた間に3巻まで出ているようです。

うーむ・・・

微妙。というかアウトか?
足の不自由な女の子が空を飛ぶ才能を持っていて、一心に努力した結果誰にも負けないような空戦能力を身につけて、エースパイロットとして活躍するって設定はなかなかだと思いますし、そんな少女と出会うのが裕福な家に生まれたけれども武器商人の身の上と政略結婚の未来を忌避しているカメラ大好き少年というのも面白いと思います。
が、そんな二人が接近していく過程の演出の仕方が凄くアリエナイです
主人公が戦闘に巻き込まれた挙げ句の果てに反政府勢力にさらわれてしまうまではまあよしとしましょう。でもそこから先はいけません・・・! カメラが使えるという理由だけで広報の役に立つと見込まれていきなり活動メンバーの写真を撮ることが許されたり、主人公が反政府勢力の極秘とも言える潜伏先を自由に出入り出来るようになるまでの時間があっという間だったり、果てはこれから先を嘱望されて大切にされているエースパイロットの女の子と即座に同居する事を要求されるとかもう凄くアリエナイ。
なんですかこれ。リアリティどころか大宇宙の神秘なレベルで無理があるにも程があるとか思うんですけどどうですか。主人公もヒロインも17歳ですよ。12,3歳ならまだなんとなく許容できる展開のような気もしますけどねえ・・・。
飼い猫が一匹いる所に新しく子猫を飼おうとする時だってもうちょっと気を使いますよ。だのになんですかこの展開。周囲の人間はどれだけ脳みそに花が咲き誇ってればこういう脳天気炸裂の展開を許容できるんでしょう。ここまで行くと非人間的ですらありますね・・・なんだかさっぱり納得できませんでした。

実はですが

中盤で語られることになるミリアムが飛行機乗りに至る経緯と、反政府勢力に現時点で協力することになっている経緯に関する描写はなかなか悪くないと思ったんですよ。所々「ご都合主義の行きすぎ」になっていると感じる部分があるんですが、まあ許せる内容だったので中盤は読み進めるのが楽でしたね。
そういう部分があったので、序盤の無理な展開が読了後に凄く浮いて感じてしまったという訳です。「ライトノベルとしてもトンデモな展開を多分に含んだ作品なんだな」と思って読み進めていたら、途中からいきなりのリアルっぽさを押し出した作品に方向転換となれば、やっぱり戸惑いますよ。
・・・なんなんですかねこのパッチワーク感。書いている最中で違う作品が顔を出しかけているとでもいいますか。ひょっとして作者の人はもっと違う印象の話を書きたかったのかと違いますかね。それが途中で方向転換してこうなったとか、そんな印象すら受けます。

キャラクターは

突飛なところが無いわけでないですが、まあライトノベルとしては許容範囲内に収まっていると思います。
主人公のマコトがちょっと(いやかなり?)人間離れしている思考形態を持っている関係で、まれに異星人レベルの突飛な行動を取りますが、それを除けばまあありだと思います(ここで私が言っているのは、最初にマコトがミリアムとちゃんと出会った時の話ですけどね・・・読んだ人ならこのシーンがかなりイカレてることに同意してくれるに違いありません)。
特にミリアムの方は悪くないですよ。可愛いとも可愛く無いとも言い切れませんが、何気に人間的な魅力があるように思えました。その分派手さはちょっと無いんですが、それが逆に魅力になっているようにも思います。
あと一人重要人物としてミリアムの友人兼メイドとしてマルという女性が出てくるんですが、こちらもまあまあです。でもミリアムが精神的に最大のピンチに陥っている時にマコトと二人で外出させて、「恋の進展があるかも!?」とかのほほんとした事にしか考えが至らない辺りをみると、凄く頼りにならないというか、ちゃんとミリアムの事見てるんか? とか言いたくなるキャラクターではありますね・・・。困ったもんです。

総合

良い星は付けられません。2つ。
この作者の人が書いた別のシリーズ「彼女は帰国星女」を読んだことがあると記憶していますが(感想は書いてないかな?)、あのシリーズもなんだか微妙だったと記憶しています。続けて2冊目ですから次はよっぽど周囲の評判でも良くない限り買わないでしょうね・・・。
しかしなんなんですかねこの歯車のあってない感じ。折角それなりに面白いと思える食材を用意するところまでは上手くいっているに、料理で台無しにしている感じが凄くします。まあそれって結局の所「設定は作れるけど人間が書けない」という致命的な結論に達してしまいそうな気がするんですが、まあ私はそう感じるというだけですから、他の人がどう感じたかも聞いてみたいですね。
イラストは夕仁氏です。カラーと白黒、なかなかに良い仕事をしているんじゃないでしょうか。ほとんど少女キャラクターばかりを絵にしているという他のライトノベル絵師さんの多くに感じるのと同じ残念さこそある程度ありますが、その辺りも構図や小物の描写で手抜きをしないことで魅力を上手く引き出していると思います。結構好きですね。