ゴールデンタイム(3)仮面舞踏会

ストーリー

普通は遭遇しないような青春の紆余曲折(酒臭かったりキレたり飛びついたり)というようなまさに「すったもんだ」の挙げ句、晴れてお付き合いをすることになった多田万里加賀香子の二人。
なんだかんだで幸せなので頭がハッピー状態になっている万里には、普通の男がドン引きする程の濃い愛情表現を出来る女の香子の強烈な攻めでも余裕で受け入れてのラブライフを楽しむだけの余裕があった。人生春真っ盛り・・・のはずである。
万里がどこか冴えないとするならば、その理由は一つしかない。林田奈々、つまりリンダとの関係である。
今の万里のの知らない「過去の万里」との間になんらかの強い結びつきがあったことを証明するだけのものが出てきてしまったこともあって、万里はリンダを責めてしまった。自分のことをまるで知らない人に出会ったかのように振る舞うのは何故ですか。それじゃあ「失われた万里」が可哀想すぎる・・・と。
しかし万里はすぐさまこうも思ってしまったのだ。最初にそれをやったのは自分なのだ、という事を。記憶をすっかり失ってしまい、親しい人たちに対して先に「あんた誰?」とやったのはまさしく自分なのだと。
そうして多くの人と自分を同時に傷つけて、どうしようもない辛い思いを抱えたままリンダの元を逃げ出した万里を救い上げたのは、香子の馬鹿みたいに一心不乱な愛情だったのだった。そうして二人は――付き合いだしたのだ。しかしだからといって万里とリンダの間に残されたしこりが無くなる訳ではないのが、青春の難しいところだろうか・・・
いつ爆発するか分からない不穏な地雷があちこちに埋まったまま、一見幸せそうな万里の大学生活は続く。彼らの行く先に待っているのはどんな結末だろうか・・・という感じで続く、ドロリドロドロ青春ラブコメディの3巻です。

うひぃ

いよいよもってきな臭いというかえげつないというか、やりきれない展開になってきてしまって私もうドキドキです。
幽霊の万里も、今の万里も、香子も、リンダも、おまけで言えばやなっさん&岡レシアも、それぞれの事を考えるとなんだかもうどういう所に自分をはめ込んで読み進めたらいいのか良く分からなくなってしまうという状況です。
誰か一人か二人位に嫌いなキャラや悪人をはっきりと作中に用意しておいてくれれば、俺もそれに応えて心の鬼平を呼んで切り捨て御免をかませばいいので楽ちんなのですが、たけゆゆはそういう部分で甘くありません。仮にまともな裁きが行われた場合、江戸時代でも最高裁判所までもつれること確定という位にもつれまくった案件です。
個人的には・・・そうですね、今のところ「今の万里」と「香子」が救われて欲しいという気持ちがあります。今の万里と香子だけが何も知らずに苦しんでいるように思えるからです。・・・まあ、じゃあ知っているからこそ辛いって事もあるんと違うかとか言われたら、確かにその通りなので勘弁して下さい。決断が鈍ります。

ところで

今作はやっぱり大人っぽいですよね。
万里や香子もそうですが、まあ恋人だということで、そのまま進展していくと自然と出くわすことになるであろうイベントのアレとかが作中で普通に出てきます(まあ匂わせる描写に留めてますが)。香子に言わせるとパリに行かないとダメらしいですが、無事に行き着いた暁には香子さん曰く、

「悩殺するから」

だそうです。しかもラ・ペルラとか着てくれるそうです。・・・おうおうおうお前ら、ラ・ペルラってなんだか知ってっか!? 海外ブランドの一流下着メーカー(詳しくはリンク先参照)だぞこの野郎! 日本でも新宿伊勢丹とか行くと売ってたりしますが、あれはもうなんですか、布だけどレースってつまり糸でもあるよね! という感じで、色々と恵まれた女性が着たりすると破壊力が凄いヤツです。マジヤバイですよ。
・・・いや自慢じゃないですけどうちの奧さんが上下キャミと1セットここのシリーズ持ってましてね・・・たまに着てくれるんですが・・・ああいうものを身に纏った女性というのはですね、危険物取扱主任とかの免許持ってないと逮捕されるんじゃないかとと思うわけですよ。男と女のどっちが逮捕されるのか分かりませんが、「つ・か・ま・え・た」とか言われると、興奮しすぎて確実に脳細胞の幾ばくかは死滅しますからね! う、ううううぉおぉぉおおおおおおおおお・・・・!(吐血)

まあいい

そういう話をしたいわけじゃないんだ・・・!
下着がどうとかっていうサービスっぽいアレなんか霞むぐらいにこの話が濃いんだよという事が結局のところは言いたいんですよ。この3巻改めてクローズアップされるのはリンダであり幽霊の万里です。昔の万里とリンダが一緒に体験した出来事とかが効果的に差し込まれているので、嫌でもリンダや幽霊万里に感情移入してしまいます。
少しも完璧じゃない彼らですが、だからこそ余計に報われて欲しいなんて思ってしまいます。今の万里が苦しいのと同じに、あるいはそれを越えて遙かに失われてしまった彼らの時間が悲しいのです。しかしだからといって今の万里の喜びを否定できるようなものではないという事は、恐らく読者全員が共通で持つことになる認識でしょう。誰か全てが丸く収まる方法を用意できないものでしょうか。
2巻では今の万里がパンクしました。そしてこの3巻では香子が何かを切っ掛けにパンクしつつあるように思います(おおよその想像は出来ますが)。そうなると次はリンダとなるのが順当な展開かと思いましたが、ラストシーンを見るとどうやら一筋縄ではいかないようですね・・・。どうなるんだこの話。

総合

星5つだろキサマ。
大学生を主人公にしてリメイクされている「わたしたちの田村くん」とも言えそうなこのシリーズですが、タイトル通りにちゃんとした「ゴールデンタイム」と呼べる作品になってくれることを祈っています。今のまま状況が逼迫していくと、いつかどこかで取り返しのつかない悲劇が襲ってきてしまいそうで少し怖いというのが今の本音です。こういう不安感は「とらドラ!」の時には感じなかった類の感情ですね。
それにしても・・・人を本気で好きになるというのは素敵な事ですが、同時に同じくらい苦しいことだというのを久しぶりに思い出しましたよ。自分が好きな分だけ相手にも自分を好いて欲しいと思ってしまうのが人間で、この本の登場人物も、そして読者もそういう部分は全く同じなんですよね・・・だから読者も作中の登場人物と同じように苦しいと感じるし、同じように幸せに浸ったり出来るんだなあと思うんです。やっぱりゆゆぽりんの書く話は心の機微の描写が素晴らしいと思うのです。
イラストは相変わらず「お前はなんか反省しろ」駒都えーじ氏です。2巻に比べればマシな気はしますが、カラーイラストに描かれたリンダ(&万里)の、のっぺりとした笑顔はどうにかならんかったのか、と言いたくなりました。他にも、野郎キャラ(万里とか)の何を考えているのかよく分からない微妙な笑顔が本当に気に入りません。なんか微妙な心境を絵にするという領域での表現力って意味で終わってませんかこの人。
・・・つーかたった今ふと思ったんですけど、本文と挿絵の関係がしげの秀一氏による漫画「頭文字D」とアニメの関係に近いんですよ。静止画の漫画の方がなぜかスピード感があるという謎事態になってましたもんねあの作品。イラストが文章の表現力を超えられていないんだと思います。