さくら荘のペットな彼女(4)

ストーリー(特に変えてないです)

水明芸術大学付属高等学校に通う神田空太は、さくら荘という下宿風の学生寮に住んでいる。キッチン、ダイニング、風呂が共同という古式ゆかしい物件だ。ただしこのさくら荘、学校では悪名高い方で有名だった。とにかく問題児とされる人間だけが集められているからだ。
空太の場合は拾った猫が捨てられないために以前住んでいた寮を追い出されたのだったが、他の連中はひと味違う。芸大付属というだけあって特殊な才能を持った生徒が少数精鋭という感じで入学してくるのだが、それらの一部が揃いもそろって人格破綻者だったのだ。才能は溢れているけど普段の行動に問題(警察にやっかいにならない方向で)がありすぎる生徒が集められているところ――それがさくら荘だった。
奇人変人の集まったさくら荘を出て行くというのが空太の目下の目標だったが、奇妙な隣人たちとの暮らしの中でその目標も少しずつ変わっていく。特に新しくさくら荘に入居してきた椎名ましろとの出会いは空太の毎日に確実に変化を加えていた。
ましろは画家としては国際的に認められている天才であったが、ましろは絵画の道を放り出してまでして漫画家になりたいのだという。それだけでも充分にとんでもない事であるのに、日常生活を送ることにかけてましろは何一つとしてまともに出来ない無能力者であった。
そんな状況の中、空太はなし崩し的にましろの世話を押しつけられることになってしまう・・・。パンツを選ぶことから髪の毛のドライヤーかけまで、十代の少女とは思えない距離感で無自覚に近づいてくるましろにタジタジになりつつも、なんとか学校生活を送る空太だったが、ましろの一心不乱に漫画家を目指す姿に色々と感じるものもあって・・・という感じの青春学園ストーリーの4巻です。
全巻が文化祭に出品するものを作る回だとしたら、今回は文化祭そのものの話ですね。

3巻の

ほぼ翌日くらいからのスタートというか、この話くらいスケジュールがタイトな作品もそう多くないと思います*1
本当に青春はイベントの発生密度が半端ないですね。・・・というかこういうのがリア充って言うんじゃないでしょうか? なんか分かんないですけど今にして思えば浪費以外の何者でもない時間を過ごした記憶しか持たない事が少し寂しい私です。というか友人と協力して何かをやり遂げた経験なんてあったかな・・・。
まあ仕事をするようになってからはいくらでもありますけどね、でもそれってやっぱりお金という利害関係の絡むなかでやり遂げるのとは全く違う何かのような気がするし・・・。やっぱりこうね、若い時はね、タイホされない程度にはヤバい事とかもやっておいた方がいいかもしんないですが、別にこの本の内容とは特に関係ない愚痴みたいになってますええ。すいません。
そういう事を思い出させる程度にはこの本が昔の痒い古傷みたいなものをサワサワと撫で回してくれる事は間違いないって事です。・・・ナニ? あンたライトノベルを毎日のように読みまくってンだから、そんな古傷しょっちゅうゴリゴリと削られてるンと違うんかい、ですって? いやいや実際そうでもないですよ。特殊能力や怪異の類を挟まずに、現代の普通な少年時代を描いているラノベって少ないんですよね。うん、意外と言えば意外だ・・・というか俺が読んでないだけかな?

ともかく

読んでいて色々な出来事がちゃんと進んでいくのが気持ちいいですね。
終わりを伸ばすことも考えてある程度牛歩戦術的な事はやっているんでしょうけど、それでもちゃんと期限を区切ってイベントを発生させて、人間関係をちゃんと動かそうとしているところには好感が持てます。ダラダラとページを消費して、何も変わらないまま話が終わるとか勘弁して欲しくないですか? 終わりが全く見えない話の続きを読み続ける気力が萎えつつある私です・・・ってこれは前からか。
とにかく空太はもちろんですが、ましろも明らかに変化していますし、七海もそうです。それにこの話ではっきりと変化をしようとする美咲とかは特にいいですね。キャラクターとしてはあまり好きな部類のキャラじゃないんですけど、美咲は仁との絡みが増えると凄く魅力的な――つまり人間的になるってことですが――少女になりますね。彼らの変化は必ずしも彼らに幸せを運んでくる訳ではないんですけど、単に「楽」や「幸」に流れようとしないキャラたちの若さが眩しいです。
この4巻では、そんな彼らの姿を唯一と言っていい大人のキャラで、今までただの役立たずだった千尋先生が簡単に総括してくれています。

「神田はまだまだガキなのね」
「悪かったですね……できれば、どの辺がガキなのか、教えてくれるとありがたいです」
「世の中全部を白と黒にわけないと気が済まないところよ。白と黒にわけることが、わけられる人間が、大人だと信じているとこ」

おお、教師らしい発言を一切してこなかったキャラクターが比較的まともなことを! なにかに目覚めたんですかね?
それはともかく、個人的には「ガキ」という単語で人間をひとくくりにするのが大嫌いな私です。ガキはガキなりに苦しむものですし、ガキの至らないところが大人の至らないところより「ガキかどうか」なんて一体誰に分かるって言うんでしょうかね? ガキって言う人間がガキじゃないという事を誰が証明してくれるんでしょうか?
なんて事を真面目に考えてしまう辺りが「ガキ」ってことなんでしょうけどね。いやあ、私いつになったら大人になるんかなあ・・・。ともかく、空太も馬鹿にしたモンじゃないですよね。

総合

そんなに長中と書けばいいってもんじゃないとか思うのでまとめに入りますけど、星4つですよ。
綺麗に進んでいるし綺麗にまとまっているし綺麗にライトノベルだと思います。ある意味で青春ラブコメディの教科書のような一冊に仕上がっています。変に刺激的ではないですが、適当に読み飛ばすわけに行かない青春の「傷」と「癒し」が物語の中に織り込まれているというか・・・そんな気がした一冊でした。
ラスト近くでは色々な事が一気に起こるので、今後の展開がどうなるのかという意味でも目が離せません。どうやっても不器用にしか生きられない少年少女の姿って、どうしてこんなに羨ましいでしょうね? キャラクターたちの苛立ちはもう遠く過ぎ去ってしまった出来事のように少ししか苦しくない代わりに、彼ら彼女らに対しての愛おしさみたいな気持ちが強くなるのを感じます。うーん、甥とか姪の成長を眩しく見守っているような感じとでもいいますか・・・上手く言えませんけどね。
イラストは溝口ケージ氏です。パッとはしませんがこれはこれでまあ味があるような気がするな・・・という印象に変わりつつあります。でも改めて見直してみると、本当・・・大したことないイラストが並んでますね・・・絵の描けない人間がこんな事言っちゃいけないような気もしますけど、まあ本音です。もうちょっと絵の中の感情表現に幅があればいいと思うんですけどね・・・。

*1:いや、禁書とかももの凄い短い期間で大量の出来事が起きたことになってましたっけ?