のうりん

のうりん (GA文庫)

のうりん (GA文庫)

ストーリー

舞台は岐阜県である。
岐阜県ってでもどの辺りだっけ? と聞かれて正確無比に答えられる人間がいたら、そいつは岐阜県民か北のスパイか何かなので注意した方が良いと思われる。関東圏の人間からすると

「岐阜? ああ、新幹線で大阪方面に行く時に確か通過するよね? 静岡と……名古屋の間だっけ? いやその向こう?」

となる可能性が大なあの岐阜県が舞台である。日本人がどの位日本という国の地理に疎いかという点についてはこのサイトに詳しいのでそちらを参照して頂ければと思う。これが意外に笑えないところが怖い。
とまあそんな土地が具体的に指定してある状態で始まる希有なライトノベルの登場である。何しろ農業高校が舞台になっているおバカお色気学園農業ラブコメディである。もうハイパーファームクリエイターとか、そんな感じの怪しい職業という感じで認知されるべきかも知れない新しい地平を切り開いたラブコメである。
ちなみに主人公は畑耕作(はたこうさく)という名の、ガイアと農業に愛されたまさに大地母神の愛を一身に受けた少年であるが、残念ながら母の愛が偏りすぎていたために少しばかり変態であるという致命的な欠陥を抱えている少年である。が、大地の愛に包まれて育ったお陰で今のところは手が後ろに回らずに済んでいた。
そんな耕作が幼馴染みの少女の中沢農(なかざわみのり)や過真鳥継(かまとりけい)という知的メガネとつつがなく学園生活を送っていたところに、何故かTVから姿を消した元アイドルの木下林檎という少女が現れたのだった! さあ、一体何が起こるのか!?
っていってもまあ農業するんですけどね。畜産とかもありますね。何気に勉強になってしまったり、何気にハートフルだったりもするし、チチ・シリ・フトモモ、あたりも豊富に取りそろえていますね。農業って……なんか、えっちなのね……って思ったとか思わなかったとか。

これは

キタ。キタよ!
久しぶりにぷるるんっと少ない脳みそが震えるのを感じましたね。開始数ページ目にして、でかフォントでバカらしくも、

「脱柵だぁ――――――っ!」

という文字が躍っていまして、それが一体何を意味する言葉なのか、都会生まれ都会育ちの人間には全く分からないという匂いがイヤが応にも読者を作品に引き込みます。
田舎に行った時にこのような警告が突然聞こえたら一体どうするべきなのか? そもそもATOK先生を持ってしても一発変換出来ない(造語でもないのに)言葉を警告として使うことに意味があるのん? とか思わなくもなかったりする訳ですが、まあそのあと聞こえてきた鳴き声が「メェェエエエエ……!」とかだったらまだマシで、「ブモォオオォォォォオ……!」だったら……、ほら、牛追い祭りってありますよね? あれな感じです。

まあ冗談ですが

農業は、ディープだ、と関根勤が間違いなく言ってくれるレベルで奥が深いのは間違いないですよ農業。腐った脳みそでねじ捏ね回した魔法的な設定なんかよりよっぽど奥深くて理にかなっていて歴史があるのです。
じゃあなんでそんな魅力的な題材をメインに据えたライトノベルがなかったんだって話になりますが、まあなんでですかね? 格好良くなさげなんですかね? 田舎コンプレックスとかもあるんですかね? いやあるんじゃないですか私も田舎育ちでどう考えてもラブホテル行くよりその辺に車とめてチョメチョメする方が理にかなってるだろという土地の生まれなので都会生まれ都会育ちの人間に会うと理由の分からない憎しみがこみ上げたりします。
あ、何の話してたんでしたっけ? そうそう、田舎って何気にアレだよねって話でしたね? 謎の匂いを発する物体が牛糞の固まりだった時の衝撃。養鶏場から漂ってくるあの目と鼻粘膜に染みる悪臭にはクーラーのなかった子供時代には随分と泣かされたものでした。朝シャンとかしたって無駄じゃんよ? とか思って吹っ切れた少年(過去の私)がいたとしても誰が責められるでしょうか?
あれ? これ何のための文章でしたかね?

とにかく

バカばっかりですが、バカで変態なりに面白く真面目でいい感じの話に仕上がってます。
主人公の耕作はアイドルの草壁ゆかという少女に入れ込んでいて、抱き枕カバーを自作した挙げ句にその中にくるまれて眠るという重度のアレですが、ツッコミ属性も持っているマルチプレイヤーです。大抵の事には耐性があるという見事な主人公属性を持っているし、あれやこれやと既存のネタを散りばめてくるので侮れません。作品中盤では岩明均がお気に入りだったようです(作者が)。
ありがちな幼馴染みの農はシリがでかいという俺好みのキャラなので一押しですが、時々どさくさに紛れて黒こげにされたりとか主人公のキン○マを蹴りつぶそうとしたり出来るやっぱりマルチプレイヤーです。なんなんですかねこういうキャラ。結婚したら自動的に子だくさんになってしまいそうな感じがバッキューン!ってキます。キまくりやがります。しかも普通に方言しか喋りませんのでそれがまた萌えンだっつーんだよォ!
メガネ美形少年の継は一見まともそうですが、下ネタに平然と突き進める才能を持ち、同時に何気に体育会系で細マッチョな攻めも受けもいける知的万能型です。言うなればこちらもマルチプレイヤーです。脱ぎ癖があるような気がするのは私の気のせいなのか何なのか分かりませんが、一発芸のためだけにタマゴを直腸に仕込むのはヤメましょう。
序盤から登場して、主人公たちのライバル学科(畜産)に所属する縦ロールでも違和感なさげなお嬢様キャラ+巨乳であるその名も良田胡蝶(よしだこちょう)は何故か作業着の似合うツンデレです。マルチとまではいきませんが将来有望です。若旦那というワラビーがセットで付いています。
ベッキーはあだ名ですが教師らしいです。淫乱アラフォー女教師で、全身に美容オイルを塗りたくった挙げ句、調子にのってサラダオイルまで塗りたくってM字開脚でセルフヌードらしき写真を撮っていた時にふと我に返って死にたくなったりするそうです。喪もこじらせると死因になり得るという実例ですね。
そして木下林檎がくだんの転校生です。元アイドルと思われますが一体何を血迷って芸能界を抜け出し、田舎の農高になんて来ることにしたのかさっぱり分からない謎めいた少女です。が、あからさまに耕作に気があるところをみると何か色々ありありそうです。アイドル時代に大ファンだった耕作から大量のナスやキュウリを送りつけられていたという事実があるのですが(耕作としては健康に気を使った結果だったらしい)、それによって間接的に性に目覚めた可能性も否定できません。

総合

いやあああぁあぁん! という訳で星5つう〜!
なんですかねこのトキメキ! 最初に「バカテス」を読んだ時の「キタコレ!」という感じに近いといえば伝わりますか? しかもこちらはパクってないので安心です。あちこちに散りばめられたオタク的ネタと、作者が無駄と思えるほどに心血を注いでしまったっぽい農業の現場取材の結果が反映されて、混ぜてはいけないと思われていたものが混ざってしまったという、かつて遭遇したことのない「農星からの物体X」としてこの世に爆誕しています。これはマストバイですね! 読まないと損なんじゃねえかな!? な!?
とりたてて大きな事件が起こったりもしませんし、地球のピンチも日本のピンチもありませんが、食糧自給率の著しく低い日本に属する我々は農業の事をもっと知っておくべきなんじゃないの? と思わせると同時にバカらしくてエロくて可笑しい、しかも最後はちょっとハートフルに締めてくれるという贅沢な作りになっていますので、見かけたら手に取ってみるといいんじゃないかな!
イラストは切符氏です。これがまた良かったですね。作者と編集と絵師が一緒くたになってバカらしくも楽しい本を作り上げてやろうじゃないか! という意気込みが感じられる絵が実にいいです。見開き絵があったり、ページ上に配置してあったり、何故かビキニアーマーを身につけたヒロインたちの絵があったりと、意味が分かりませんが楽しいです。是非次もこの調子で頑張って欲しいですね!

感想リンク