GOSICK〈4〉愚者を代弁せよ

GOSICK (4) ゴシック・愚者を代弁せよ 富士見ミステリー文庫
GOSICK (4) ゴシック・愚者を代弁せよ 富士見ミステリー文庫桜庭 一樹  武田日向

富士見書房 2005-01
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おすすめ平均 star
star一般小説へと活躍の場を広げる兆しがここにも。
starミステリーの王道として出来が良いのではないでしょうか。
star欲望に潜むもの

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もう少しでこのGOSICKシリーズの最新刊まで辿り着きそうです、が、そのためにはまず4巻の紹介を。
GOSICK3巻の感想はこちら

今回の話はヴィクトリカがいつもいる「聖マルグリット学園」からほんの少ししか出ません。事件は学園の敷地内で起こるのですが、実際に追い求めるのは、過去からの挑戦者・リヴァイアサンの残した「錬金術」の謎と「消失」の謎です。今回はその謎をヴィクトリカが解き明かす楽しさももちろんありますが、珍しく沢山出て来る「聖マルグリット学園」に所属するサブキャラクターとのやり取りが面白い内容でもあります。今までも顔は良く出していましたが、全編に渡っての登場のチャンスはなかったヴィクトリカと久条の級友であるアブリル・ブラッドリーセシル先生です。
今回の話は久条がアブリルに連れ出されて見に行った怪奇映画に触発されて騒ぎ出すのが原因なのですが、時を同じくして、ヴィクトリカ錬金術士・リヴァイアサンの残した「回顧録」を読む事で、過去の謎に挑む事になるのですが・・・という導入です。今回は3巻のような「ヴィクトリカの風邪ひきシーン」はありませんが、段々と分かりやすくなってきつつあるヴィクトリカの久条に対しての気持ちが滲み出てきつつある描写が転げ回るほど楽しいです。少し引用してみます。

いつもなら、革張りのスイングドアが勢いよく開いて、「ヴィクトリカー!」と叫びながらおかしな東洋人の少年が迷路階段を駆け上がってくるはずの時間なのだが、今日は……。
「今日は、遅いな……」
ヴィクトリカは小声でつぶやいた。
それから、はぁ……とため息をつき、しばらくぶらんぶらんと手すりにぶら下がっていた。

要するにヴィクトリカは久条が来るのを今か今かと待ちわびているのですが、久条はそんな事には未だに気づいていません。そろそろなんとかならないものかとか思ったりもしますが、ヴィクトリカヴィクトリカで、久条が来ていざ「退屈だった?」と聞くと「……そうでもない」とか答えるので、事態は混迷の一途を辿っているという訳です。しかも、今回はアブリルという敵がいるので、ヴィクトリカとしては余計にムキになる条件が揃っているという訳でして。
また、アブリルはヴィクトリカを見るのが今回が初めてで、見た時は「ビスクドールが歩いてる!」などと言っています。アブリルはちょっと乱暴な所がありますが、彼女は彼女でとても可愛らしい所のある少女です。そのアブリルがヴィクトリカと久条が一緒にいる所を見て思った事を記述した所を引用してみます。

アブリルは、冒しがたい空気で周囲を圧倒する小さな美少女と、その手をごく普通に握ってなにことか話しかけながら席に案内する久条一弥をきょろきょろと見比べ、しばらく表情をなくしていたが、やがて泣きそうな顔になって唇を震わせた。

ここだけ見ると意地悪な女の子として今後登場してきそうですが、そんな事はありません。どちらかと言えばヴィクトリカにとって「聖マルグリット学園」での初めての女の子の友達のような関係になって行きます。ただし、そこに至るまではお互い「屁こきいもり!」「フリル野郎!」という一連の罵倒が収まってからの話ですが……。参考までにヴィクトリカとアブリルの会話を一つ引用。

「君はばかだなぁ」
「な、なんだとぅ!」

アブリルの返事が実に素敵です。ヴィクトリカだけでなく、アブリルもとてもいい子なのです。

それからセシル先生は、先生と思えない程のダメっぷりを発揮して物語を盛り上げてくれます。生徒の三角関係をネタにしてじんわりと楽しんでいて、かつ、恐がり、めがね、人の話を聞かないとくればもう完璧です。ちなみに、久条の頑固かつニブチンなところは相変わらずなので今更取り上げません。ヴィクトリカとアブリルを呆れさせるとだけ言っておきましょう。
また、謎解き以外の重要事としては、2、3巻で名前の出て来たある重要人物が姿を現実に表します。そして久条にまたしても不吉な予言を残して行く事になるのですが……。彼らはこの先どうなって行くのでしょうか。いよいよ目が離せません。この辺りは本編を読まれて確認して下さい。
「聖マルグリット学園」から出ない割には幾つもの重要な事件が起こり、今後の物語の行く末を占う上で結構重要な役割をしめている巻だと思います。ぜひ読んでみて下さい。
あまり深く考えずにキャラ小説として読んだとしても十分楽しめる巻だと思いますよ。おすすめです。