カレイドスコープのむこうがわ(2)

カレイドスコープのむこうがわ 2 (2) (電撃文庫 み 11-2)
カレイドスコープのむこうがわ 2 (2) (電撃文庫 み 11-2)三木 遊泳

メディアワークス 2007-09-10
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おすすめ平均 star
star楽しみ損ねた。
star残された僕ら
star現実との乖離は青春の醍醐味

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ストーリー

主人公の少年・神田通弘(かんだみちひろ)は高校生。
なんというかぽやぽやした性格で「僕はあたまがよくないんだ」と自分で言ってしまうようななんともほんわかとしたキャラクター。特に変化の無かった彼の受験生生活は、一個のチョコレートと、一つの出会いで変化して行く。
同級生の井上志帆(いのうえしほ)とはチョコが繋いだ縁で、なんというか、友達以上/恋人未満みたいな関係が続いている。
そしてそれと平行して、「祓い師」門倉淑乃(かどくらよしの)からは通弘が「同調者(幽霊と見たり、その見える風景を他の人にも見せたりする能力)」である事を告げられ、仕事(幽霊退治)に協力させられたり・・・といった感じ。
高校生で、志帆とは微妙な関係で、でも幽霊退治の仕事は妙に順調に進んで、でもやっぱり普通の高校生活だ。
そんな不思議を詰め込んだストーリー

心配してたんですけど

出ましたね、2巻・・・と思ったらこれで完結なんか!
でもあとがきを見るに、作者の人から言い出したらしい。うーん、正直残念だという気が凄くするのだけど、作者が決めた事ならもう納得するしか無いね。・・・でももったいないという気持ちが出てしまう。それはあれかな、逆に良くできた話だから、という事の裏返しなのかもね。

本編の方は

「1幽霊=1話」という構成で進んで行きまして、未練を残した幽霊を成仏させる話あり、心霊写真の話あり、通弘が危険に巻き込まれる話あり、微妙な遠距離恋愛状態にやきもきする井上志帆の微妙な心理を描いた話あり・・・と、手を変え品を変え、楽しませてくれます。
読んでいてどの話も甲乙付けがたい程気に入ったのですが、やっぱりラヴが漲ってる話がチョイ好きって事もあって、第八話「巡る秋」が特にお気に入りですね。
この話は第七話の「往く春」と対をなしている話で、第七話が通弘側の心の動きを丁寧に追った話だとすれば、第八話は志帆側の同時期の出来事と心の動きを追った話です。
志帆が一体何を切っ掛けに通弘を好きになっていったのか・・・と言う辺りが書かれているのですが、そのエピソードがとっても良かった。大事件は無い、気の利いた台詞を通弘が言った訳でもない、でもじんわりと心のすき間を満たして行く様な暖かさを感じる出来事が書かれます。うん、恋ってそんなのも良いね。

「チョコは食べればいいけど、カメラは扱い方もわからないしなあ」
『……神田君。まさかチョコの扱い方が自分ではわかってるつもりなの? あたし、そのへんのことにはすごく疑問があるんだけど』
「えっ……。食べる意外にどうするんだ?」
『そうじゃなくてねー。ああもう』
井上はまだ不満がありそうだった。
『普通ならいまごろはもっとこう、いろいろ素敵だとおもうんだけど……』

二人ともね、なんとも可愛らしくていいなあ。

どの話も

とっても優しい。
見えないけれど、色々な登場人物の優しさに包まれて、とても暖かい空気が見える。幽霊が出てくる話なのに、この暖かく希望に満ちた感じって・・・なんか良いね。
なんだか厳しそうという感じで描写される「祓い師」の門倉淑乃も、不器用ですがちゃんと優しさを見せる。(なぜか)厳しかったりもするけど、それでも人間的に丸みを感じる様な仕草や行動を感じられる。これは彼女だけではなく、他の登場人物にも言えますね。そこが、とてもいい。

総合

星は4つ。
もの凄く大まかに表現すると・・・あったかい雰囲気の話ばかりで作られた「付喪堂骨董店」って感じかな? 雰囲気が違いすぎるので全然読了後の印象が違うけど、
星が1つ減っているのは最終話の展開がちょっと残念だったのが理由です(一部積み重ねたものが消えちゃう)。でもこれはこれで「アリ」で「正解」だよなあと思う気持ちもあって・・・何とも困りますね。でも最終話の展開が気に入っていたら星5つだったから、やっぱり楽しかった。
でも読んでいない人には「この本読んでみない? きっと楽しいよ!」とオススメ出来る気持ちは十分に持てました。うん、この作風好きですね。同作者の次のシリーズが出たら、間違いなく買うと思います。
イラストはぷよ氏ですね。こちらも個人的には好きな絵柄。・・・奥行きとかは余り感じないけど、なんとなく媚びない様な絵柄がお気に入りですね。
・・・しかし、完結かあ・・・もっと登場人物の活躍を見たかったけど、引き際も肝腎だしなあ・・・うーん、悩ましいねえ・・・。