鳥籠荘の今日も眠たい住人たち

鳥籠荘の今日も眠たい住人たち〈1〉
鳥籠荘の今日も眠たい住人たち〈1〉壁井 ユカコ

メディアワークス 2006-11
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star鳥篭が閉じ込めるのは世界か人か
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ストーリー

鳥籠荘」と呼ばれる建築物がある。実は元・ウィリアムチャールズバードという名前のホテルだったのだが、老朽化も進み、ホテルとして機能しなくなった後は、なぜか一般社会から逸脱してしまった人たちが暮らす「変人どもの巣窟」と成り果てていた。この話は「鳥籠荘」に住む「変人達」の、少し可笑しくて、少し物悲しい物語。

いやあ、いいですね

一体どんな話なのやらと思いつつ読み始めましたが、どの短編も一定以上のレベルで作品が作られていて、読ませる読ませる。それでは1話毎の紹介と感想を。

さよなら、泣き虫ポストマン

作者があの超有名な作品を読んでいる事は想像に難くない作品ではありますが、久しぶりに涙腺を刺激されてしまいました。私はドライアイなんで丁度良いくらいでしたけどね。
切ない話なのですが、読了感も悪くなく、好みです。ポストマン・ジョナサンがとても素敵に描かれていて、そして鳥籠荘の他の住人の馬鹿さ加減と何とはなしに漂う物悲しさがあって、素敵な話に仕上がっています。

ストリート・ブレイブ・ガール

恐らくこの物語のメインの語り手となっていくであろう「衛藤キズナ」が、いかにして今のポジションに至ったか、というお話。
私は生憎と男なので、思春期の少女のつっぱしり感とか、止まれない暴走感とか、そうした衝動が彼女達の心の一体どこからやって来ているのかは分からなかったのだけど、それでも主人公キャラクターの背景として描かれる作品としては十分共感やら理解やらが得られた作品でしたね。それは漠然とした代物ではありましたが「ああ、こうしてこの少女は出来上がったのだなあ」と感じる事が出来たという事ですね。
まあ、この衛藤キズナ、萌える要素は全く無いのですが、一人の人間として良いです。人間味があるというか・・・彼女にはちょっと特殊な趣味(?)があるのですが、そうした「無さそうでありそうな感じ」がとてもリアルで良い。まあ人間誰でも意外性って言うものは持っているものですしね。
・・・大人しくて可愛いあの子が満月の時だけ全裸で月光浴をしながら狼のマネをしているとか、ちょっと派手目なあの娘の趣味が自分につれない恋人の藁人形作って白装束+頭にロウソクで深夜の神社を散策する事だとか。あ、両方ともこれは趣味というより奇行か。ちなみに本編にそんな変な人は出てきませんので安心して下さい。

パパはわたしだけのHERO

これは良かった・・・。実に良かった・・・。
別に主人公がゴスロリ美少女だからではない・・・と思う。父ちゃん、あんたいい父ちゃんだ。そして娘! あんたもいい娘だ・・・。こういってはなんだけど、父ちゃんの生き様(実際にはなんでそうなのかはっきりした事は分からないけど)には正直同じ男として、無骨な生き物として、気の利かない不完全な生き物として、ちょっと憧れてしまったり。
私も父と呼ばれる日が来るのであれば、こういう父になりたい・・・ような。外見はちょっとアレだけどさ。娘もとっても可愛らしくて、その考えている事もとっても繊細で、そして親子の仲が良くって、素敵です。
・・・全然関係ありませんが、「ちち」と入れるとまず始めに「乳」と変換される私のMacはどこか故障しているのではないかと思います。買ったばかりなのに! くそう! アップルコンピュータめ!

籠の中の羽のない鳥

画家の青年と、主人公の衛藤キズナの二人のお話。
画家・浅井有生(あさいゆうせい)と、そのモデルをする事になったキズナの、どことなく怪しくて、悲しくて、そしてちょっと愛しい所とか、可愛い所とかがあって、なかなかの雰囲気の物語。近づいているような、遠く離れてしまいそうな危うい距離感と、女の子の意地の物語。そして「残されたままになっていたある謎」のちょっとした種明かし。
この話も必要な事が必要なだけ書かれている、という無駄のない感じがとてもいい。衛藤キズナ人間性の補完とか浅井有生の人となりとそのルーツとかですが。

総評

個人的好みの問題から星4つですけど、素晴らしい出来の本だと思います。読んで損なし。変な言い方ですが、好みから外れているのに油断すると星5つ付けそうという・・・そういう感じの作品でした。
イラストは少女漫画チックで本当なら好みではないのですが、作品全体の雰囲気を表現するのには非常に良い仕事をしているなという感じがしましたね。おすすめですよこの本は。

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