悪魔のミカタ(1)

悪魔のミカタ―魔法カメラ (電撃文庫)
悪魔のミカタ―魔法カメラ (電撃文庫)うえお 久光

メディアワークス 2002-02
売り上げランキング : 222638

おすすめ平均 star
star主人公がなんともかんとも……
star軽く読めて面白い
starミステリーの雰囲気を楽しもう♪

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

前書き

私はロックが好きなんです。Rockです。ロックンロールです。その反逆精神、革新の精神、諦めきれない幼児性、馬鹿みたいな挑戦、笑われそうな壮大な夢。そう言ったものですね。
尊敬するロック歌手はブルース・スプリングスティーンです。ロック史に残る名曲「Born to Run」において彼は

「'Cause tramps like us,baby we were born to run」
(俺たちのような根無し草は走るために生まれて来たんだ)

と歌っています。
或はやはり名曲の「No Surrender」においてこうも歌います

「Like soldiers in the winter's night with a vow to defend. No retreat, believe me, no surrender」
(冬の夜に砦を守ると誓った兵士達の様に、俺は決して退却しない、降伏しない)

と。私は彼のこれらの歌を聴くたびに思います「奴のキンタマアリゾナ州よりでっけえぞ!」と。


さて、「悪魔のミカタ」についてですが。

ストーリー/ミステリー?

もうどうせ色々な人に読まれていると思うので、あらすじについては簡単に紹介しますが、「悪魔のミカタ」シリーズは主人公の堂島コウが、不思議な力が関連しているとしか思えない事件に恋人の冬月日奈と一緒に関わって行く所から始まって行くといっても良いでしょう。
で、実際に謎のアイテムの「魂を代償に持ち主の望みを叶える」という「知恵の実」と呼ばれる魔道器とも言える代物が事件に関連している事を突き止めます。そして・・・その後非常に重要な「ある事」が起こった事によって、彼・堂島コウの運命は大きく変化して行く事になります。
実は事件前から彼の元には「アトリ」という少女の姿をした悪魔が「魂の回収」のために訪れていました。コウはアトリに「お前『知恵の実』使って願い叶えたろコラ!魂渡しや〜」という風に詰め寄る訳ですね。しかしコウは「知恵の実」を使っていないので魂を回収される訳にも行かないし、「NHKなら見てないから」位の感じで「ほか当たって」といって悪魔を放り出してしまうのですが・・・。
しかしその後「ある事」の為に必要にかられて、魂の力を必要とする「知恵の実」と呼ばれるアイテムを使用した人を「悪魔」に教えて、魂を集める手伝いをする替わりに「ある願い」をかなえようとする話です。
あれ、長くなっちゃった・・・。

堂島コウの魅力

もちろんその幼児性です。

  • 現実を容認出来ない/しない傲慢さ。
  • 必要なら全てに対してNOと言ってしまう事の出来る愚かさ。
  • 反逆精神。
  • 勝利への度を超えた貪欲な欲求。
  • 何もかもを求める子供の醜さ。
  • あり得ない夢を本気で渇望する事。
  • 不可能に挑戦する心。

ここで前書きに戻りますが、まさしくロックです。美しいまでの愚かさとでも言いましょうか
私はこういうキャラクターが大好きです。正義とか、平和とかの大義名分など彼には必要ありません。自分の中にある「信じるべきもの」「大切なもの」の為に全てを掛けて戦って行く事になります。
彼はまだまだ子供です。自分の無力さを良く自覚している子供ですが、そのために手段を選ばず、利用出来るあらゆるものを利用して突き進んで行く事になります。

周り全てが敵になる

堂島コウの存在は「大人」「常識」から見れば愚か者で憎むべき対象に他ならないといって良いでしょう。
現状を打破する事、出来ない事を可能としようとする精神は常に、既得権益の上に乗っかった大人達、あるいは常識の上で生きて行こうとする人々にとっては「敵」以外の何者でもないからです
悪魔のミカタ」となって「通常では叶える事の出来ない夢」を叶えようとする堂島コウにとっては、それを不可能/不謹慎と断じている「現実」に所属する人々は全て潜在的な「敵」になりうるのです
強大な敵です。考えようによってはこれ以上強大な敵など存在しないでしょう。

大切なもののために

しかし「自分以外の何か」を自分の命より大切だと思っている人にならきっと分かってもらえるでしょう。
全てをなげうってでも守りたい何かがある事、叶えたい希望があるという事を。堂島コウはそれに挑戦します。ひたすら、ひたすらに、涙を流す事すら止めてまっすぐに。誰にも自分が願いを叶える事を望まれていないという事を知りつつもです。
私はここに正しく「ロックの精神」を見いだします。
自分にとって唯一掛ける事の出来る「最後のコイン」である魂をチップとして、彼一人戦いに乗り込むのです。たった一人、やれると信じて。協力者はいますが、実際に本当の意味で信じているのは堂島コウ一人と言ってよいでしょう。
これがロックで無くて何をロックの精神と言えば良いでしょうか。

この話は

堂島コウが「大人の諦観」を手にしてしまった時、夢に破れた時に、終わります
少なくとも私に取って読む価値を失います。ロックの精神を失って抜け殻のような「大人」になった瞬間にこの物語は終わらざるを得ません。
「大人」の幸せとかを求める様になった瞬間/結末を迎えるくらいであるならいっそ死ねと思います。「ジジイになる前に死んでやる」です。そういう物語です。
1巻の段階では読者にとって堂島コウの決意は「どこまでのものなのか」判然としない所があると思いますが、読み進めるうちにその「固い岩のような心」が徐々に明らかになります。その描写は時として稚拙ではありますが、ロックの精神が好きなら読んでみて下さい。彼の魂こそがロックで、ヒーローです。

堂々の5つ星

ま、1巻の段階ではここまで付けられるかどうか分かりませんが、それだけの価値があると思います。あわない人もいると思いますが、とりあえず1巻、読んでいないようなら読んでみて下さい。おすすめです。
このたび、2年半の沈黙を破って新刊「悪魔のミカタ666―スコルピオン・オープニング (電撃文庫)」が発売された事をきっかけに、感想をまとめる気になりました。それまではどうなるか分からないので寝かしていたのです。完結する気が作者に無いと判断した作品を薦めるつもりになれなかったという事もあります。
が、新刊でました。後は作者と堂島コウを信じて、彼の行く末を見守って行く事にしようと思います。