BLACK BLOOD BROTHERS(5)

BLACK BLOOD BROTHERS〈5〉ブラック・ブラッド・ブラザーズ 風雲急告 (富士見ファンタジア文庫)
BLACK BLOOD BROTHERS〈5〉ブラック・ブラッド・ブラザーズ 風雲急告 (富士見ファンタジア文庫)あざの 耕平

富士見書房 2006-02
売り上げランキング : 49280

おすすめ平均 star
star前半ほのぼのv
star展開が速い!!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ハード&シリアスな展開が魅力です。ライトノベルといいつつあまり「ライト」と言えない本作、意外に初めてのラノベとしてもおすすめのような気もしてきました。・・・20代位までラノベに触れた事の無かった人で、何かに手を出してみようと思った方は、本シリーズはいかがでしょうかね。

ストーリー

九龍の血統」との対決はひとまず遠ざかり、ジローコタロウ、そして葛城ミミコにはつかの間の平穏が訪れていた。その期間1年。しかし、その沈黙を破り「九龍の血統」による特区に対しての再侵攻が始まる。
折しも、特区では今まで伏せられていた存在しないはずの「第十一地区」と「その秘密」が明らかにされ、秘密を知っていた者達(セイ、ケイン、陣内)とカンパニー上層部(尾根崎、張雷考)の関係に亀裂が走っていた。その結果としてカンパニー内部でも激震が走る事となり、その緩んだ結束につけ込むかのように、「九龍の血統」達の影が見え隠れし始める。
来るべき戦いの時を暗示する様なシリーズ5巻です。

カンパニーと吸血鬼たちの亀裂

これがまさしくこれから訪れる嵐を予感させてしまいます。第十一地区とその秘密を巡っての不信感、疑惑——そういったものですね。十一年間かけて培ってきた信頼という一番大きな力を失いそうになり、結果として新たな勢力の介入を許す隙を見せてしまいます。そしてついにカンパニーの力及ばず、公になってしまう吸血鬼の存在。
雲行きの怪しさがこれでもかっ!と強調されていきます。

ミミコの人脈が実は凄い

トップの不信感とは全く逆に、1〜3巻と、その間の一年間で築いてきた人間関係をいっぺんに明らかにするような大活躍(?)をミミコが話の前半で見せてくれます。そのノリは短編集のコメディ調そのままなのですが・・・ピンチになぜかケイン本人が助けに現れたり、交通事故寸前の所をセイに助けられたり、酔っぱらいに絡まれた所をゼルマンの気まぐれに助けられたり・・・などなどです。
アホっぽくてアヒル口なので今イチピンと来ませんが、少なくともこの時点でミミコは特区に存在している最大の勢力(カンパニー)に所属しつつ、吸血鬼の三大巨頭とも個人的に親しい繋がりを持つ非常に重要な人物になってしまっています。
アヒル口の冴えない彼女こそが、特区を特区足らしめていた精神そのものではないでしょうか

ゼルマンの望み

本編で語られる事になりますが・・・まあ前々から暗示こそされていましたが、まさにそういう展開になってしまいました。後先考えないと言えばそうですが、まあ仕方がないでしょうね・・・。彼こそはまさに戦士、まさに闘将アスラの血統というべきでしょうか。都合が良い/悪いは別として、彼の生き様それ自体は実に筋が通ったものですね。

九龍の血統の動き

特区にとっては悪役以外の何者でもない彼らですが、彼ら血族の結束は強く、血族内においてはまさしく家族の様な信頼関係と愛情があったりします。その辺りが丁寧に描かれていくのですが・・・。
「九龍の血統は乱を好む」などと本編では描写されますが、それは彼らなりの調停のあり方なのだ・・・なんて事もかつて陣内の口から言われています。
この話は無難に行けば「九龍の血統」の滅びの物語であり、特区の防衛の物語であり、吸血鬼という存在そのものを人間がどう受け止めていくか、という話になるんですが、着陸先はどうなるでしょうか。

  1. 九龍の血統は人間とは決して相容れない。滅ぼすべき一族である。
  2. 九龍の血統すら人間が飲み込んで、受け入れていくべきである。
  3. 九龍の血統が他の全てを支配下に置く。

大まかに分けてこの3つの展開ですよね。
5巻時点で九龍の血統の暗躍はまさしく見事と言うべきで、特区側に良い所はあまり無いんですが、それでも彼らの勝利条件が3だった場合はあまりに厳しく、勝算は殆ど無いと言えるでしょう。活躍は派手に描かれたりしているんで、そうは見えませんが・・・。
何故かと言えば「九龍の血統」そのものが、現状では自分の血統のみしか必然的に認めず、他を排斥する他ないからですね。その多様性を認められないあり方そのものが、滅びを孕んでいるとしか思えません。また、そうした彼らのあり方は特区だけではなく、世界全体を敵にまわさずにはおれないからです。

総合

種まきの話ですね。星4つ。
「九龍の血統」の側からすれば、本当に注目してくべきは「葛城ミミコ」がどのように動いていくのか、という所以外にないという感じなんですが、どうなるでしょうか。
実は彼ら「九龍の一族」は強大な力こそ持っていますが、血統内の家族を除くと「その存在をそのまま認めてくれそうな精神を持った人物」というのは世界全てを見渡しても葛城ミミコ以外に存在しない非常に孤独な存在なんですね・・・。まさしく生まれながらの忌み子といった宿命を背負った血統な訳です。
なので「九龍の血統」が世界とどう相対していくかというキーマンは、葛城ミミコその人なんですが・・・。策士、軍師と呼ばれるウォーカーマンですが、その事実に気がつくでしょうか? もし気がつかないとすれば、それは間違いなく彼らにとっての完全なる悲劇の始まりとなるのでしょう。
あと本編では、続く6巻でゼルマンがどうなっていくのかという所も目が離せませんね。