“文学少女”シリーズ7 “文学少女”と神に臨む作家<上>

ストーリー

物語は遂に最終章に。
心葉の側に居続けて、心葉を支え続けた一人の”文学少女”の抱えた秘密がその重たいヴェールを持ち上げてその底を覗かせ始める。その先に見え隠れするのは天上の光なのか? 地底の闇なのか? ゆらめく何かはまだ確かな形を取らないままそこにあり続けている。
そして、人生の謎を解く探偵役が消滅した時、この混沌に幕を下ろすのは一体誰か。

またお前か・・・

って何の事だかさっぱり分からないと思いますが、この感覚は何度か味わった事がありますね。
結構懐かしいと言えば新井素子とか、あるいは冴木忍とか、今でも元気な壁井ユカコとか、最近では紅玉いづきの作品で、この匂いを嗅いだ事があります。
それは・・・激烈な日差しに昼の間焼かれ続けた磯が夜に放つ匂い。じくじくと足元に染みてくる命のスープ。何者かが生まれようともがき続けている閉じられた庭。海の底で流れから取り残された澱みがのたくる気配。
恐ろしく、得体が知れず・・・しかし目を逸らす事は出来ず、DNAの奥底に潜み続け、人の歴史を影から支配してきた”女性の持つ何か”です。

これの

匂いを嗅ぐと私は途端に落ち着きが無くなりますね。
よくよく考えてみるとどのキャラクターにも作者である野村美月から滲み出た”何か”が覆い尽くしている事に気がつきます。心葉にも、遠子先輩にも、ななせにも、芥川にも、美羽にも、流人にも・・・同じように等しくそれが奥底でたゆたっている様に思います。
でもそれに、惹き付けられるんですね。
ゆっくりと嬲るかのように締めつけてくるこのやり口・・・こう言ったら不謹慎なのでしょうが、間違いなく女性特有のおどろおどろしさですね。女性の奥底に潜む渇望と泥濘がこうした物語を作る事を可能とするのじゃないでしょうか。

単純に

物語の事を語れば簡単なんですけどね。
つまりは・・・『流人覚醒編』であり、

「おかえりなさい、心葉さん」

『女神琴吹降臨編』であり、

「ずっと井上の側にいるっ」

『祈りの文学少女編』である訳です。

「お母さんの、ごはんが食べたい……」

という感じです。
それぞれがかなりのパワーを持っていますので主人公の心葉には翻弄されっぱなしで良い所が殆どありません。

でも

主人公の心葉はギリギリの所で見捨てきれないキャラクターで停められている感じとでも言いましょうかね。
もうあと半歩ダメサイドに踏み出していたら、余りの情けなさに途中で読むのを放り出していたかもしれません。そういう際どいレベルです。
でもその際どい寸止めで話を最後まで作れるところにこの本が多くの人に評価される理由があるようにも思いましたね。実に微妙なさじ加減です。
主体性があるような無いような・・・根性があるような無いような・・・意地があるような無いような・・・主人公をぶん殴りたくなる寸前で私は今踏みとどまっている感じです。仕方ねえ、もう少し手出ししないで見ていてやるか的な。

総合

星4つかな・・・。
上下巻の上巻ということもありますが・・・なんですかね、途中から完全にサイコホラー作品に思えてしまったのが問題でしょうか。
今まではなんとかヒューマンドラマの枠に収まっていた感じですが、今回は全体的に完全にホラーの領域に片足入ってしまっていると感じたのが評価の下がった理由でしょうか。
で、結果として「ホラーにはホラーの読み方がある」という塩梅になってしまい、そしてホラー作品としてはちょっと緊張感が足りなかったかなという気がします。いえ、面白いのは確かなんですけどね。そもそもホラー作品として読むのが間違っている気がしますが、読めてしまったのだから仕方ないですね。
ところでこんな感じに私も感想を好き放題書いていますが、作者と読者の関係の話は面白かったですねえ・・・まるで告白録のようで・・・。
それから本編では全編通じて流人くんが気を吐いて怖い方向で目立っていますが、私が今回一番「すげえ」と感じたのは以下の一文です。

「井上の、マフラーが、欲しいの」

この作品に女の情念からの逃げ場無し。しかしそれこそが愛しく、それ故に恐ろしいのです・・・。

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