“文学少女”見習いの、傷心。

“文学少女”見習いの、傷心。 (ファミ通文庫)

“文学少女”見習いの、傷心。 (ファミ通文庫)

ストーリー

聖条学園に入学した日坂菜乃は、正式に学校に通い始める僅か前に、一人の少年が学園で慟哭する姿を目撃していた。そして、それ以来その少年の事が忘れられずにいた。しかし、彼女はその少年を学校で見つけ出す。彼の名前は井上心葉
彼に近づきたい一心で文学部にまで押しかけた菜乃は、結局文学部に入部して心葉に対して果敢かつ猛烈なアタックを開始する。空気が読めない菜乃は持ち前のあっけらかんとした前向きな気持ちで自分の恋心をぶつけまくるのだが・・・。

「日坂菜乃さん、ぼくはきみが大嫌いだ」

菜乃は心葉からこんな事を言われてしまう。
人一倍太い根性を持っているとはいえ、菜乃も女の子。落ち込んだりもするのだが——それでもやっぱりめげない! 菜乃の心葉に対する気持ちは萎れるどころかますます大きくなって・・・という所から始まる「おまけ」の物語の第2巻です。

ううむ・・・

面白いかつまらないかと言われれば面白いですよ。面白いです。
でもなんだろうねえ・・・。もう一つ魅力に欠けるんだよねえ・・・。期待しすぎたかなあ・・・。未来の事が分かってしまっているせいか今後の展開がどうなっていくのかというドキワク感に欠けてしまうのは否めないし、やっぱり話の中心にいた遠子先輩がいないというのも大きいです。更に加えて、物語の語り手が心葉から菜乃になってしまったというのもありますよね。
こう言ってはなんですが、感受性が発達しきっていない菜乃だと物語自体に深みがなくなるような気がしています。まあ未熟な雛鳥が育つ様を楽しむ作品ということで割り切って楽しめばいいんでしょうが・・・でもなんですかね、これじゃあまるで普通のサスペンス仕立ての少女小説みたいです。
なんなんですかね。視点が変わるだけでここまで「感じない」話になるもんなんですかね。前巻まではそれも新鮮さがありましたけど、続いて行くとなると、ちょっと・・・という所です。心葉も(端から見ると)普通のイケメン男子で下級生の女の子からモテモテというポジションになってしまっているし・・・いきなりキャラクターとしてのリアリティを失った感じです。芥川くんに感じていたあの奇妙に清浄な空気を心葉も纏ってしまったと言えば概ねあっているかも知れません。

全体の

話の流れとしては今までの文学少女シリーズと同じように展開していくんですよ。それは間違いないです。
でもやっぱり「見習い」向けの内容なんですよね・・・。スキーで言えば、しばらく前まで上級者(井上心葉)向けコースの急斜面を滑っていたのに、今は初心者(日坂菜乃)コースでボーゲンを強制されているという感じでしょうか。別にスキーという内容に変わりはないんですけど、やっぱり食い足りないですね。
あの登場人物達の”先”が読めるというのは嬉しいんですけど・・・でもやっぱり引き際ってあるなあ・・・と思ってしまいました。しっかりとピリオドが付く事によって輝きを増す物語というのは間違いなくあるんだと思います。それに加えて、以前既に到達した地点を再び飛び越えても人は感動してくれないのだと思います。贅沢を言っているのは重々承知ですが、本音ですね。
少なくとも、今後も本作のような展開をしていくのであれば、購入を見送るかも知れません。露骨に二匹目の泥鰌を狙った作品なんて悪い予感しかしませんしね。

でもまあ

次で終わりらしいので、そんなに気にする必要もないのかも知れませんが。
いつも文学少女シリーズの感想を書くときはスラスラと書きたい事が出てくるんですけど、今回は何気に苦労してます。それだけ心が動かなかったという事でしょう。終わりの見えてしまっている作品を読むというのはこんなにもつまらないものなんでしょうかね。残念としか言いようがありません。
ちなみに珍しくうちの奥さんの感想をここで取り上げてみますが、やはり似たような印象を持ったようでした。

「このシリーズって、なんかもっと深くってドロドロしてなかった? 今回なんか、微妙っていうか……」

薄味。それに尽きると思います。文学少女の持っていたきらめきというのは、引き攣れ爛れまくった傷口の容赦のない表し方と、その傷を癒す言葉の魔法にあったのだと思います。内面の語られない心葉と菜乃では、それらを表現するのに役者不足なのではないでしょうか。

総合

うーむ3つ星。この星の数はシリーズ初かな。
なんというか、文学少女シリーズを書く前の野村美月がそれ程話題になっていなかった理由がなんとなく分かったような気がしました。能力もあるし見せ方も上手いんでしょうが、ひょっとしたら物語を作る上でのキャスティングに難アリなのかも知れないですね。主役にしてはいけない人を主役にしてしまうとか、そんなんです。いやいやいくら事務所が力持ってるからって言ったってそこでジャニーズはねえだろ、みたいな?(違うか)
ところで絵師の竹岡美穂氏ですが、やっぱりこのシリーズにはこの絵師さん以外考えられない感じですね。でもあまりにも透明感のある絵なので、他で応用がききそうにないところな何気に心配です。あ、でも少女向けのライトノベルとかなら幾らでもいけそうか。何で描いているんだろうっていうカラーがとても魅力的ですよね。

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