ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ

ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)

ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)

ストーリー

悪徳と退廃の街・ロアナプラ
そこは吹きだまりの中の吹きだまり。まともな神経の持ち主が一人として存在しない最下層の悪党達が住まう街。タイの片隅に存在する「ありとあらゆる法と正義の滅びた街」は、今日も鋼の掟の元、激烈な太陽光の下で醜悪な姿を晒していた。
その街の片隅で今日も非合法なビジネスを続ける海運屋・ラグーン商会に一つの依頼が持ち込まれた。いつも通りの仕事といえそうなそれは、海賊の集団をターゲットの元まで運ぶというものだった。別件で大損を出していたラグーン商会はこの払いの良かった仕事に食いついたのだが、食いついてみれば明らかにハズレと言えそうな仕事の様相を呈していた。
ヘロイン中毒のリーダー、ラッパー気取りのガンマン、中世の時代から抜け出したような海賊姿の女——まともな「ビジネス」が実行可能な連中とはどうしても思えない。そんな「荷物」を前にして暗澹たる気分でいたラグーン商会の面々だったが、その裏にはロアナプラの街に慎重に作られたパワーバランスを崩しかねない危険な陰謀が隠されていた——!
漫画のノベライズ作品に手を出すのは初めてですが——これは”当たり”じゃないでしょうか?

個人的には

ノベライズ作品とかで当たりを引いたことが殆ど無いんですが、これは面白かったですね。
ブラック・ラグーンと言えばそのアクションシーンのキレの良さと、作品の中に透徹している苛烈さと、そしてキャラクターの活きの良さが売りですが、それらのどれもが『ほとんど』魅力を減じることなくこの本の中に詰まっているように思います。
上の文章にわざわざ『ほとんど』と付けたのは、やっぱり漫画と小説という違いもあってどうしても「スピード感」といったものは漫画にかなわないかなあと感じたからなんですが。

しかし

劣っていると感じたのはその位ですね。
キャラクターそれぞれについては漫画と全く同じ登場人物達がこの本の中にいるように感じましたし、特にレヴィーやバラライカ、張といった漫画の方でも人気のあるキャラクターについてはさらに魅力を増すような形で物語の中に登場します。
この辺りについては全く不満を感じないどころか——実に良かったです。

まずはレヴィ

血だるま拳銃遣いここにあり、といった展開がちゃんと用意されています。

「くだらねえ遊びに命を張ったな。テメェ」
レヴィの思考の中では、もはや後に控えた仕事のことなど完全に棚上げされていた。そんなややこしい事情よりずっと単純明快な原理に則って、今の彼女は動いている。——笑えない冗談では笑わない。ただそれだけのことなのだ。

「だいたい、”意味”って何だ? 今ここで銃を抜くことの他に、テメェの人生に”意味”なんてあるのか? 飯喰って糞して寝て起きて、その憂さ晴らしに酒飲んでファックして、あとは? そのどっかに意味なんていう結構なもんが挟まってるとでも思うのか? おめでたいぜ、ボケナス。命に意味があるとしたら、それは死にかける間際で拾ったときぐらいなもんだ」

このセリフに続く言葉が本編ではあるのですが、それこそがレヴィですね。まさにあらゆるケダモノの上に立つ殺し/殺される化け物。それこそがロアナプラの二丁拳銃。・・・最高です。

さらにはバラライカ

彼女の過去——アフガニスタン時代から今の姿まで満遍なく描かれます。

「——待たせたな。同志伍長」

定型句と言えそうなセリフですが、こう言うのが痺れるんですよね。

「彼は屈服による安寧よりも、闘争の継続を選んだ。地獄の底の袋小路で、なおも不屈という在り方を貫いた。彼は紛れもなく我が同胞だ。今なお我々と同じ魂で、血染めの夢を見続けている……
ああ、今ようやく私は再会の喜びを嚙み締めているんだよ。彼とはしばし道を違えて、互いの立場に齟齬が出た。ただそれだけのことでしかない。我々は今また同じ夢を見て、同じ道に殉じようとしている」

戦い、戦い、戦い——。その果てに見えた彼女たちの景色とは一体どんな地平なのでしょうか? 平和な社会で暮らす私には想像するほか無い世界ですが・・・その世界は私たちが思っているより遙かに喜びに満ちた豊穣な世界なのかも知れません。

まあ

文章量の関係とか、ネタバレを避けるためとか、単純に手間の関係とかで引用を連発するのはこの位にしておきますが、とにかく登場人物一人一人にちゃんと見せ場が用意されている感じです。そういえば「ですだよ」ねーちゃんなんかもちゃんと登場しますしね。
とにかく、血で血を洗う戦いが描かれたかと思えば、漫画の方で出てくるソーヤーに代表されるようなおマヌケ&お笑いキャラの活躍なんかもあったりして飽きさせません。
読んでいる方としては悪党どもの血の饗宴に酔ったりとか、ロアナプラを揺るがす陰謀の行く末にページを捲る手が早くなったりとか、馬鹿げた展開にニヤニヤしたりとか、色々と忙しい本です。
結構長くしっかりと書かれた本なんですが、読み終わってみたらあっという間・・・という感じでしたね。

総合

星4つ。もし同じコンビで次があるなら間違いなく買います。
私はこの本を書いた虚淵玄という人の文章に触れるのは——ゲームを含めて——多分2度目ですが、この人くらい「ブラック・ラグーン」をノベライズするのに向いている人は多分他には見つからないでしょう。その位には波長が合っている様に思います。
この本の中には間違いなくあのロアナプラの匂いがあります。野郎の魂を問答無用で熱くさせて、レヴィに興奮し、バラライカに心酔し、張に憧れ、ダッヂ、ロック、ベニーの日々に想いを馳せてしまうあの空気です。とにかく漫画の「ブラック・ラグーン」が好きな人なら読んでみる価値は十分にあるのではないでしょうか。
ところで本編のイラストは当然のように広江礼威です。イラストレーターとしての彼に触れるのは初めてですが・・・間違いなく凡百の絵師の上をいっていますね。どの絵も魅力的です。
また、読んだ人には言うまでも無いでしょうが・・・本編中のレヴィの一枚はもうアレです。最高です。こんな女が銃を振りかざし、そこらじゅうに血と死を本当に振りまいているのですから・・・これはやっぱりもう殺すか殺されるかしないといけませんね。彼女こそ、本物です。本物の——。

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