狼と香辛料(9)

狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)
狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)支倉 凍砂

アスキー・メディアワークス 2008-09-10
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ストーリー

ロレンスたち一行のたどり着いた港町ケルーベで巻き起こる、伝説の秘薬となり得る商品であるイッカクの角を間に挟んだ商人たちの暗闘劇
奇しくもその渦中に放り出されたロレンスは、そのただ中からなんとか自分の利益をひねり出すべく奮闘することになる・・・その利益が一体どんなものになるのかもはっきりとしないまま。
義理のあるローエン商会とそれを代表するキーマン。ロレンスに莫大な金を約束しながら裏切りを胸に秘めたエーブ・・・街が傾くほどの取引の行方は一体どうなるのか? そしてそこに巻き込まれたロレンスは、そしてホロは?
商取引ファンタジーの第9弾、正直言って冷や汗の出具合が絶好調じゃないかと思います!

本筋とは余り関係ないですけど

今回の話でロレンスの置かれた立場に、作家・支倉凍砂を当てはめてみるとこれが実に面白かったりするんですね・・・。ちょっと不謹慎ではありますが、こんな例え話を思いついてしまいました。

自分の手柄のためにロレンスを鉄火場に連れ込んでまで利用しようとするローエン商会のキーマン。

当てはめるとしたら、電撃文庫とその編集者Aでしょうかね?
電撃文庫(ローエン商会)に所属している支倉凍砂氏(ロレンス)に「狼と香辛料」を過労死する程沢山書いて、電撃の売り上げに貢献しろと言ってきた感じとか。・・うん、ありそうじゃないですか?

イッカクの角を手に入れるために大金を対価にローエン商会裏切る事を依頼するが、信用できるかどうか分からないエーブ。

独立心旺盛なやり手編集者Bとかどうですか?
その編集者B(エーブ)が大きな契約金(イッカクの角の儲け)をちらつかせながら自分と一緒に完全に独立してビジネスをしないか? と持ちかけてきた感じでしょうか。・・・しかも、この編集者Bは編集者Aとも当然知己の関係で、しかも微妙な関係でもあると。
いや、これも現実にありえそうじゃないですか?

そしてその間に挟まれて、どちらからも信用と信頼を要求され、手駒となることを強いられそうになるロレンス。

もちろん支倉凍砂氏その人ですね。
アニメ化されて今は元気だけれども、編集者Aの言うとおり過労死する程働いても破滅だし、かといって編集者Bの言うことも丸ごと信用できない・・・。そして武器になるのはそれこそ自分自身の才覚と、今のところは「狼と香辛料」という有名作品だけ。
これもなんかあり得なくもないというかなんというか・・・。電撃文庫で現在本を書いている支倉凍砂氏は、ローエン商会に所属しているけど全く同じ立場という訳ではないロレンスの立場に近いでしょうし・・・。
ちなみにホロは(もしいたら)支倉凍砂氏の奥様で決まりでしょうな!

「北」にその儲けを搾取されていて、かなりの不満を溜め込んでいるそこそこ大きな商人のレイノルズ

支倉凍砂氏の知り合いの、収入はまあ安定はしているけど現在パッとしない他の作家という感じでしょうか。
・・・ちなみに「北」がどこを指すのかまでは怖くて考えたくありません!

もちろん

あくまで例え話ですからね!?
でもこれは、現実に置き換えた例え話が作れるくらいに、この話の作りが人間的で生々しいという事の証明かも知れません。

とにかく

こんな感じで物語を読んでみると・・・いやいや、途中の展開(キーマンがロレンスにしかけた策とか)なんて実際に大いにありそうな話じゃありませんかね? 新宿辺りの高級ホテルのスイートとかに閉じ込めて様子を窺ったりとか・・・歓待してご機嫌を取りつつその動向を探ったりとか。
現実の延長線上に置いてしまえそうなこの「狼と香辛料」という話って・・・なんだかちょっと怖くなってきたね? ちょっとどころじゃなくて怖い話になってしまいましたね? リアルに想像できるって、いやあ、マジ怖い。
もちろんリアルなのはそんなことばかりじゃありません。義理人情に金に裏切りに暴力・・・ありとあらゆる「交渉ごとにまつわる可能性」をひっさげて、今回も話が進んでいきます。
その様は本当に生々しくてエグくて・・・他のライトノベル作品では決して味わえない類の緊張感を生んでいますね。

まあ・・・

上の方で挙げた例え話がともかくとしても、相変わらずこの商人ファンタジーが面白いことは間違いありません。
単純にみた場合は今回ちょっとホロの出番が少ないかな〜とか思わなくもないのですが・・・いやいや、下品な言い方ではありますけど、ホロは「あげまん」ですね。肝が据わっていて、いつでも最後のカードをためらいなく切ることが出来、そして判断力と知恵に秀でる・・・見事なものです。

「ぬしは口だけの雄ではありんせん、とわっちに言わせてくりゃれ?」

今回のロレンスの決断は彼の選び取ったものですが、その道は間違いなくホロの後押しで舗装されていたのですからね。

総合

8巻は星3つでしたが・・・この9巻は5つ星にせざるを得ないでしょうなあ・・・。だって面白いんだもん。
最後の最後で何かの手を打ってくるとは思いましたが、なるほどそう来たか〜と感心したりした展開でしたね。一見分かりにくいけど、筋道を立てて説明されればとても分かりやすいのが金の話というもので、その特性を見事に生かした話作りは見事と行っていいのではないでしょうか。
それにまあ・・・上の例えじゃないですけど、ロレンスやホロ、コルといったキャラクターがまるで実在している(あるいはしていた?)かのように感じられるところが見事ですね。中盤のロレンスの八つ当たりのシーンではなんか分かりませんけど唸ってしまいましたね。その人間的な描写に。

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