ハーフボイルド・ワンダーガール

ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫 は 2-1)
ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫 は 2-1)早狩 武志

一迅社 2008-09-20
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ストーリー

受験を間近に控えたとある放課後。高校生の湯佐俊紀の前に現れた彼の幼なじみの水野美佳が、もじもじとしながら素敵なことを言った。

「……その、突然こんなの、勝手だなって判ってる。でも」

それは幼なじみとして育ってきた二人にとって、いつかはやって来たであろう想いを告げる1シーンのそれだった。・・・ただし、その後に続く衝撃的な一言が無ければだが。
「責任とってくれるよね」
俊紀は混乱する。確かに美佳の事を想っていたのは事実だが、一体何の責任を取れと言うのだろう・・・? 美佳のそれは比喩でも極端な発言でもなく、いわゆる「おめでた」のための責任を取るという事だったのだ。
しかし俊紀にはその心当たりが全くなかったのだ! 一体何が起きているというのだろう・・・! そんな途方に暮れる彼の前に現れたのは、ミステリー研究会をやっているという女生徒・佐倉井綾だった。
ミステリー仕立ての青春ストーリーの登場です。

ま、

「ミステリー仕立て」なんてわざわざ書いたのは、普通に読み進めていればおそらくほとんどの人が「一体何がどうしてどうなってこうなった」というのが序盤から中盤で判ってしまうからですが。そう言う意味では謎解きの楽しさというのは特にはないんですね、この本。
でも面白いんですよ。ミステリーとして読むと面白くはないんだけど、普通に青春ドラマとして読むと実に読み応えがあります。

主人公は

・・・多分二人という感じになって、一人は俊紀、一人は綾です。この二人が実に魅力的に書かれていくんですよね。
まずは俊紀ですが・・・何処にでもいるというよりは少し高めの少年という感じでしょうか。親は病院をやっていて、今やその期待を一身に背負う少年で、しかも優しいと言える少年です。
しかし彼は今回の事件でどうしても複雑な心境にならざるを得ないのですね。彼が好ましく思っていた少女が妊娠している・・・しかし彼の身に覚えがないとすると、当然幼なじみの彼女が誰かと「そういうこと」をしたと言うことになるわけで・・・でも、本当なのかどうか、どうしてそんなことを言い出すのか、彼には判らない・・・。

どうして……美佳ちゃん……
自分が父親でないと証明するためには……これまで考えず、意識せず、逃避し続けていた現実と僕は否応なしに向き合わねばならない。

彼女の事が好きだ、でも彼女の事が分からない。恋慕、嫉妬、そして疑心暗鬼・・・そんな彼の苦悩がとても丁寧に書かれているのです。

そして

もう一人の綾ですが、こちらも中々に魅力的なのです。
とにかくミステリーが好きな普通の少女なのですね。確かに人より聡いところもあるけれども、決して常に冷静沈着な名探偵という訳ではないし、人より大人びている訳でもない。でも責任感が強くて、時として思い切ったことも出来るし、頑張り屋。そんな風に書かれます。

「君、水野さんのお腹の子の本当の父親、捜し出す気なんでしょ? なら、協力してあげてもいいわよ」

こんな風に声をかける綾は、確かに興味本位という側面があるのも事実なのですが、やっぱりそれだけではない少女ですね。自分の興味を優先するあまりに人の気持ちを踏みにじってしまうようなタイプの人間がいますが、綾にはそういう所がありません。完璧な少女ではないけれど、誠実な少女。大人ではないけれど、子供でもない。そんなタイプです。

この二人が

交互に話を語っていき、物語は徐々に真相に近づいていくのですが・・・いや〜イライラしましたね!
何が? というのはここでは言えないわけですが、どこまで人は傲慢になれるのか、という見本のような人間(達)がこの話には出てきて、そして残念ながら

「こういう人間って、確かにいるかも・・・」

と思わせてしまう妙なリアリティがあるからなんですが・・・。それがとても現実的で、辛いんです。
でも、全体で見渡した場合、この話は確かに面白さがあるんですよね。なんだかんだ言って一気に読んでしまいましたし。読者を惹きつけるだけの物語がこの話の中にはあるんです。上で書いた「現実的な辛さ」が物語のスパイスになって全体を引き締めているのもまた確かな事かな・・・なんて思うのです。
私がいらつきつつ、でも楽しみつつ読んでしまったというこの本、是非読んでもらって内容を確認して欲しいところです。

総合

星4つは固いですね。あと一押しがあったらサービス込みで5つ星付けたかも知れないです。
ミステリーとして(つまり知的ゲームとして)楽しむのは無理だと思いますが、とにかく主人公二人が実に若者らしい純粋さや懊悩を持っていて、それがとても魅力的に感じますね。
また、この話はこの一冊でちゃんと決着が付きますし、手軽に読める内容に抑えられていますからちょっと本屋で見かけたら手にとって欲しい感じです。
そうそう、本編のイラストもなかなか良い感じですね。ちょっと古い漫画みたいな感じのする白黒イラストも中々悪くないですし、そのくせ口絵のカラーイラストは現代的でムードたっぷりという感じです。うん、好きですねこの絵。

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