とらドラ・スピンオフ!(2) 虎、肥ゆる秋

とらドラ・スピンオフ2! 虎、肥ゆる秋 (電撃文庫)

とらドラ・スピンオフ2! 虎、肥ゆる秋 (電撃文庫)

ストーリー

とらドラ!」は確かにラブコメディだけれども、少年少女は四六時中恋に夢中なのか? いや違う。
とらドラ!」は竜児と大河が主人公だけれども、それだけで物語は上手く回るのか? いや違う。
この話はその物語の間を埋めていく短編集! でも相変わらずつゆだくなのはどーにかならんのか、というか高校生が満載のバスに間違って乗ってしまったときに襲いかかってくるあの独特のむせかえるような匂いを行間にびっしりと貼り付けて、いざ発進です。

というわけで

短編なんですが、純粋コメディあり、ほろ苦い恋物語(濃い物語?)あり、今まで語られなかった人物の意外な側面ありと、「とらドラ!」本編を楽しんでいる人なら十二分に楽しめる出来になっていますな。
私的にはコメディっぽい短編はサクサクと間食テイストで楽しみましたが、やっぱりよかったと感じたのはちょいシリアス入った短編の方だったりします。具体的には、

  • 春になったら群馬に行こう!
  • 先生のお気に入り

の二篇でしょうかね。

上で上げた

「春になったら群馬に行こう!」は主人公がロン毛バカの春田というかなりチャレンジングな作品となっており、主人公が変わればどんな物語も別の作品のようになってしまう好例というか、あるいは割れ鍋に綴じ蓋の好例という感じに仕上がっています。
とにかく知的水準は果てしなく低いのに、それでも若いっていいなあ・・・なんて思わせてしまうという恐るべき作品ですね。

ルンルン、とぴったり並んで寄り添い、瀬奈と春田は一緒に一つのパンフレットを眺め始める。「草津いいよね」「いいよね〜! どこにあんの!?」「群馬」「群馬かあ〜! それどこ!?」「関東」「関東かあ〜! 草津いいよね〜!」「これは伊香保だって」「いいよね〜! どこにあんの!?」「群馬」「群馬かあ〜! ……えっ!? 群馬!?」「群馬」「群馬、なにげにすごくねえ!?」「それだけじゃないよ。水上温泉も、猿ヶ京温泉も、四万温泉も、全部群馬県」「ヒョー! 俺、群馬好きになってきた!」「あたしも」「群馬いいよね〜! 幸せ!」「あたしも」

もちろんバカな発言を繰り返している方が春田ですが。
・・・この文章が凄いのか、書いたゆゆぽが恐ろしいのか、はたまたこれを印刷して本にすることに決めちゃった編集部が凄いのか、印刷しちゃった印刷屋がヤバいのかもう分かりませんが、とにかく春田の魅力が満載です。
うん・・・バカでも感じる力があればいい、そんな作品でしたね。

で、

個人的にヒットだったもう一篇の「先生のお気に入り」ですが、これがなんと我らが独神である恋ヶ窪ゆり先生が主人公となっている話だったりするんですね。いやあ・・・良かったというか・・・こういう話を書いてくれるなら本当にいつまででもたけゆゆの本を買い続けたいと思わせる一発でしたね。

(『生徒』だけじゃないや。恋愛も、同じことか)
真面目に恋やら愛やらを考える奴ほど、正直に内臓をご開帳したがるものなのだ。どれだけ無防備に本当の自分とやらを——つまりは生の内臓と同義の部分を、相手に見せられるかで想いの質量が担保できる、みたいな。

からあげとたらスパを食べているとこういう洞察が得意になるのだろうか・・・? 読みながら思わずうんうんと唸ってしまった一文だったりします。
とにかくこんな展開で進んでいくのかと思いきや、話はあれよあれよという感じてゆり先生の若かりし時代(22歳)に遡り、そしてそこで更に大噴火してくれたりするんですね。

「甘え、てんじゃ、ねぇぇぇえええええええぇぇぇ————っ!」

こうきて、ああして、こう締める。うーん、この辺りの技量は本当に見事というか、人気が出るべくして出ているというのがしみじみと分かる一作ですね。というか、ゆり先生はいい先生だなあ・・・でもだから結婚できないんだろうなあ・・・鋭くて頭が良すぎるのよね。
結婚なんてちょっと頭が悪くなってないと出来ないもんですからな!(遠い目)

総合

安定感すら感じられる星4つ。
いや、5つ星ではないものの、盤石の星4つではないでしょうかね。確かにレースでは2位だったけど、年間通じて2位とりつづけてポイントレースではぶっちぎりで一位でなにげにちゃっかりチャンピオン、そんな星4つです。
いやあ・・・少年少女が悶え苦しんだり、ショックを受けて白くなったり、ニヤニヤ笑いがとまらなかったりする姿は本当に読んでいて楽しいものです。
という訳で、インコちゃんの雄志を引用してこの感想を締めることにしますね。

インコちゃんは、身悶えていた。
鳥かごの床にベショォと座り込み、ぐちゃッ、と羽根を広げていた。仰け反るみたいに鳥肌丸出し首皮を伸ばし、欠けてひび割れた、死んだ爪そっくりの嘴をくばぁ〜とだらしなく開いていた。その端からは濁った涎が泡立ちながらトロトロ流れ出し、でろん、とはみ出たドドメ肉色の舌は痙攣。
目は——目は、完全に、イっていた。逝く、の方じゃない、エクスタシー状態だ。黒と緑の血管が透ける薄い膜がかかったような白目は、ぴっくんぴっくん波打つように戦慄いていて、そう、インコちゃんは、
「こういうエステ、インドにある、らしいよ……」
「……ある、のか……?」
ぬれぬれに濡れている。
ぴたーん、ぽたーん、と一滴ずつ、水滴が鳥かごの上から垂れてくるのだ。それを頭のド真ん中にうっとり全部受け止めて、インコちゃんは快感しだるま。

もうなんか、インコちゃんは鳥ではないというか・・・ブサイクでキモイけれども鳥を越えたなにか超生命体というか・・・いやいやっぱりインコというか・・・大好き・・・?

感想リンク