プシュケの涙

プシュケの涙 (電撃文庫)
プシュケの涙 (電撃文庫)柴村 仁

アスキーメディアワークス 2009-01-07
売り上げランキング : 4228

おすすめ平均 star
star予想以上
star重たい…………が

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

ある夏の暑い日、一人の少女が死んだ。それは本当にありふれた話。どこにでもありそうな「ありふれた死」だった。
しかし、本当にそうだろうか? 「ありふれた死」などというものがこの世界にあるのだろうか? 少女の死の理由を追うために、少年達は真夏の底を這いずり始める――。
これは「死」に彩られた、一つの夏の物語。

真っ先に

書いておかなければならないと思ったことが一つ。
これは「こういう話を書け」と誰かに言われて書ける話では無いということ。もうどうしようもなく書きたくなってしまった物語であり、書かねばならない物語であるだろう、ということ。
でなければこんな話は書けない。夢中に、あるいは呆としているうちに作者の中で形をとりはじめた物語は、もはや吐き出さずにはおれないようになり、結果このような形で結実したのではないか、そんな物語です。

この物語について

あそこはこう思った、こういう読み方も出来る、あれが良かった、などなどと色々な切り口で語ることはきっと出来るに違いないでしょう。しかし、恐らくそれらは全て陳腐に終わるのじゃないかと思います。
何故ならば、頭上から降り注ぐ雨のような物語に注釈を付けるのは、神の言葉を人の言葉に貶めることに他ならないから――なんて妙な理由を思いついたりしました。
でも同時に、この物語はそんな大層なものじゃないとも思います。これはほんの小さな物語で、そこにはありふれた悲劇と喜劇が入り混じっているだけとも思えます。消費されるべくして生まれた言葉の羅列のように扱うべきじゃないかなどとも思うのです。
でも――読み終わった後に心に残った思いが単純な言葉に置き換えられないのなら、私にとってそれはやはり「ただ」の物語ではないし、ただの「少女の死」ではない――そんな風に思います。

しかし

しみじみと思うのは、この本の作者である柴村仁を好きで良かった、ということでしょうか。
光があれば影があり、明があれば暗がある。今までの作品では巧妙に隠されていたのだろうけれども、恐らく僅かに滲み出ていたであろう作家・柴村仁の持つ落差に惹かれていたのかな・・・今となってはそんなことを感じます。
そして、陽気で明るい作風の裏でとぐろを巻いていた蛇が、今こうして鎌首をもたげて読み手の右脳を痺れさせる麻薬を吐き出したのじゃないでしょうか。そしてテーマとして選ばれたのが一つの「死」。
その「死」の苦みを是非多くの若い読者に味わってもらいたいと思います。

総合

評価不能・・・というところにしたい気分ですが、星5つにしておきましょうか。
間違っても陽気な物語ではありませんし、小骨が喉に刺さったような読了感になることを約束しても良いと思いますが、それでも読まないと損なんじゃないかと思わせる一冊です。
というかこういう話がなんでライトノベルレーベルから堂々と出ているのか疑問に感じたりしました。この人の桜庭一樹みたいに一般小説に行っちゃうのかなあ・・・そんな予感をさせる一冊でした。
ところでイラストですが、本編中の白黒イラストは非常に良いと思いましたが、巻頭のカラーイラストは余計なように感じました。絵が語りすぎてはいけない物語というものは確かに存在して、そしてこの物語はそんな一冊なんじゃないかと思います。

感想リンク