隣り合わせの灰と青春

隣り合わせの灰と青春―小説ウィザードリィ (集英社スーパーファンタジー文庫)
隣り合わせの灰と青春―小説ウィザードリィ (集英社スーパーファンタジー文庫)ベニー松山

集英社 1998-12
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なにやら再版された本も絶版らしいですねこの本。リアルタイムで古い方の本を当時買っておいて良かった・・・としみじみ今になっても思う1冊です。イラスト関係が古い方が絶対よいです。口絵のカラーイラストしか無いんですが、それが良い。1988年版の方はもし古本屋とかで見かけたら、ラノベ読みなら即ゲットです。古本でプレミアが付いているようで、当時の出版価格¥980より1000円程値上がりしている事に驚きました。

WIZARDRYをご存知ですか?

コンピューターゲームの勇、Ultimaと並んで評される、超有名RPGです。この本はその記念すべき一作目「狂王の修練場」の世界観をモチーフにして作品が作られていきます。そうは言ってもそもそもWIZARDRYのこの1作目にシナリオらしいシナリオと言ったものは皆無に等しくて、プレーヤー達は最大6人のパーティを組んで、大魔導師・ワードナの作り上げた地下迷宮と、その中に蔓延る魔物どもを相手に、魔導師ワードナが狂王トレボーから奪った「魔法の護符」を取り戻すべくトレボーの命を受け、地下世界へと乗り込んでいく事になります。
このゲームをプレイした事がある人にとっては以下は完全に余計な説明ですので、MALORの魔法で下の中見出しまでテレポートしてください。

WIZARDRYを知らないと読んでも仕方が無いか?

そんな事はありません。魔法なども飛び交う作品ですが、魔法の名前だけ投げっぱなしみたいな描写はいっさい無いと言ってよいので、そこらへんはご安心を。ちょうど「ソードワールドRPG」をやった事が無くても「ロードス島戦記」を読んで楽しめるのと同じ感覚です。知っていればより楽しめるのは確かかも知れませんが、知らなくても全く問題なく読めます。

WIZARDRY(以下WIZ)の雰囲気

シンプルなワイヤーフレームの白と黒の画面で表示された擬似的な奥行きのあるグラフィックです。古いファミコン時代の「女神転生」シリーズや、スーパーファミコン時代の「真・女神転生」などを想像してくれれば良いと思います。敵モンスターのグラフィックも使い回しのものが多く、今のゲームとはお世辞にも比べ物にならない程の貧弱な環境で遊ぶ事が出来るゲームでした。しかし、それ故に多くの想像をする余地を残していたゲームでもあり、プレイヤー達は本当に誘い込まれるように地下へと何度も繰り返し潜ったのです

WIZの世界で戦う人々

最近のゲームでは「クラス」とか「職業」とかは珍しくも何ともありませんが、こうした要素をゲーム世界に持ち込んだ最先端に「WIZ」があったのは間違いありません。

  • 戦士 直接戦闘を得意とする職業です。基本的にあらゆる装備を身につける事が出来ます。
  • 僧侶 回復・退魔の魔法を扱う事が出来る職業です。盗賊よりは戦闘力があります。
  • 盗賊 戦闘は苦手ですが宝箱の罠の解除にこの職業程適した職業はありません。
  • 魔法使い 破壊的な魔法を扱う事の出来る職業です。ただし体力的に一番劣っており、命を落としやすいです。
  • ロード 戦士系の上位職業です。レベルが上がると僧侶系の呪文を覚える事ができます。また、彼らにしか装備する事が出来ない特殊な上級の装備も存在します。
  • 侍 戦士系の上位職業です。レベルが上がると魔法使い系の呪文を覚える事ができます。また、彼らにしか装備する事が出来ない特殊な上級の装備も存在します。
  • 忍者 盗賊の上級職とも、戦士の上級職とも言える特殊職業です。宝箱の罠の解除に盗賊に次ぐ能力を持ちます。また加えて一定確率で敵を一撃死に追い込む「クリティカルヒット」を繰り出す事があります。
  • 賢者 僧侶と魔法使いの上級職で、両方の魔法を覚える事が出来ます。また特殊な能力として、迷宮内で見つけた「謎のアイテム」を鑑定して、特定する事が出来ます。
WIZの戦闘は・・・

一番近いのは「ドラクエ」です。「ドラクエ」が「WIZ」の戦闘画面を参考にしたのは間違いありません。ただ、ゲーム性においては大きな違いがあり、WIZでは戦闘が長期化する事はほとんどありません。最初の攻撃で敵を殲滅しない場合、大抵の場合かなり大きなダメージを負う傾向があり、一度一度の戦闘が(よほどのレベル差がない限り)かなりスリリングなものでした。強敵相手の戦闘では一回のコマンド選択に非常に頭を悩ませたものです。場合によっては魔法の無駄うちなども発生したのですが、それでも過剰とも言える攻撃を敵に繰り出したものです。敵を倒しきれなかった場合、それは大抵の場合はこちらのパーティに多大な被害を及ぼしました。

絶対的な「キャラクターの消滅」の存在

最近のRPGもまれにありますが、WIZにもキャラクターの消滅という事が起こりました。キャラクターが何らかの理由で死に、寺院などでの復活に一度失敗すると「灰」となってしまい、さらにそこでもう一度復活の儀式に失敗した場合「消滅」となります。そのキャラクターは2度と帰ってきません。この「消滅」の存在が、ゲームに強烈な緊張感をもたらしました。
説明しだすとそれこそそれだけで埋まってしまうのでこの程度にしておきますが、とにかくWIZはそうしたゲームでした。

一つの悲劇から展開し始める物語

主人公のスカルダ(人間/戦士)達のパーティは、ワードナの迷宮に望むトップレベルのパーティでしたが、ワードナの迷宮の最下層と言われる地下10階に挑む事になります。それなりの経験を積んでいた彼らは十分に警戒しながらも進んでいたのですが、あるモンスターの一群れが彼らの自信を打ち砕きました。そしてパーティの中で最も優秀な魔法使い・シルバーが、その戦闘で死に、そのまま復活もままならぬまま「消滅」してしまいます。
優秀な魔法使いを失った事でパーティ全体の戦闘力の低下を危惧したスカルダは、ある決断を自分に下しました・・・戦士から侍へとクラスチェンジする事です。そしてまた彼らは、ワードナのいるであろう迷宮の地下10階へと挑んで行くのです。

うまい具合に話を作り込んでいる

上記の通り、WIZの世界は非常に空白部分の大きいものです。ですのでこれをノベライズする場合はその「空白部分」を作者自らの手で埋めていかなければなりませんが、この辺りを作者のベニー松山氏は非常に巧妙に利用して、一級のライトノベルを作り出しています。
ゲーム内ではただの記号にすぎない各キャラクター達に見事な肉付けを行い、ゲーム上ではただのワイヤーフレームの画面だった迷宮内を雰囲気たっぷりに描いたかと思えば、敵モンスターを精緻に表現するという「想像の余地を残したが故に」発生した隙間を満遍なく使って、読者を死と栄光の待つ世界へと誘ってくれます。
最初こそスカルダ達はシルバーの弔い合戦とばかりに迷宮を進むのですが、その先にはワードナの迷宮に隠された恐るべき事実と、狂王トレボーの陰謀、避ける事の出来ない死闘が待っていたのでした・・・。
スカルダ達パーティの戦いと、彼らの「死と隣り合わせの青春」が描かれていきます。

私の青春の1冊です

耽読しました。何度も読み返しました。この本に星5つ以外を付ける事は私には出来ないでしょう。
私の手元には1988年発売の初版本がありますが、これを手放す気には絶対にありません。おそらく今後どこに行く事になっても持っていく事でしょう。最高にお気に入りで、しばらく読んでいないとまた読み返したくなります。もちろん当時の私の読書量は今と比べ物にならない程少ないので、今もし読んだとしたら今程気に入っていない可能性はありますが、それでもおすすめしたいですね。もし見かけたらぜひ手に取ってみてください。

余談

ヒロインにもちゃんと「サラ」という名前の女性魔法使いが出てきます。あとちょっと跳ねっ返りな女盗賊の「ラシャ」。当時はそんな言葉無かったから「いいなあ・・・」といった表現でしたけど今の読者だったらどう表現するのかな? まあ変にカテゴリ分けしてこれから読む人の楽しみを奪うのもなんなので、この辺にしておきます。