いぬかみっ!(14)完結編〈下〉

いぬかみっ! 14 完結編 下 (14) (電撃文庫 あ 13-18)
いぬかみっ! 14 完結編 下 (14) (電撃文庫 あ 13-18)有沢 まみず

メディアワークス 2007-05
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おすすめ平均 star
star盛り上げ方が上手い
starライトノベルらしく楽しめた
star読むのが楽しかった作品。

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いぬかみっ!」の感想もこれにて完走。長かった・・・でも短い感想を書くだけでも長かったんだから、作者はもっと長かったんでしょうね。いや〜、物語を完結させるって言うのはそれだけですごい事ですな。

ストーリー

精霊たちの力を使って遂に呼び出す事に成功した3体の古代の神々、レネウス、メギド、エルフィネス。
なでしこは自らの命を代償に、彼らにの帰還を願う。その為に行わなければならない試練は——ビックリする程達成が容易なものであった。しかし、その試練そのものがなでしこが持つ弱さそのものの証しとなって、彼女に襲いかかる!
しかし、その結果を指をくわえて見ている啓太たちではなかった。彼らは次々と自分自身をかけて勝負に挑み、3体の強大な神々に挑戦していく事になる。そして啓太もその試練を受けるのだが、その依頼はなでしことは真逆に、到底達成不可能と思われる内容だった・・・。
今まで張り巡らせた伏線が全て回収され、一点に向かって収斂していくような流れで回転する最終巻! 啓太たちは薫を取り戻し、元の日常へと戻る事が出来るのか?

なでしこは

力の強い犬神ですが、この話では彼女の弱さがいきなりクローズアップされてしまいますね。
捨てて、捨てて、消して、消して・・・あらゆる物を薫の為に費やしてきた彼女ですが、ひたすら願いを純化する事しか出来なかった彼女の悲しさがここにあります。誠実故の悲劇、純粋故の弱さ、とでも言いましょうか。

「君には今、こうやって風から君が火をつけるのを守ってくれる手もないんだね」

彼女の抱えた孤独は、そのまま弱さの明かしでもあります。・・・孤独だからこそ弱い、なんてちょっと可哀想ですね。

しかしですが

なでしこがそれで終わってしまったらまさしく悲劇なのですが、それで終わらせない所が「いぬかみっ!」クオリティであり、啓太クオリティでもあります。不利な戦いを強いられる啓太たちですが、元々彼に後退はありません。理想の未来に向かって爆走を開始します。その啓太に課せられた試練ですが・・・48時間世界一周!(3神の妨害付き)です。
なでしこに課せられた試練を遥かに上回る難度ですが・・・これが啓太の持っている力なのでしょうね。繋がる力の強さとでも言いましょうか。

そして彼らは・・・

積む!積む!積みあげる! 自分たちを代償にして、幸せを願って自分の力を積み上げる!
啓太とようこを始めとして、なでしこ含む薫の犬神たちは勿論、宗家とはけ、大長老から仮名史郎、カオルや新堂ケイや白山名君、そして赤道斎に大妖狐、さらには留吉に変態集団まで、啓太がここまで積み上げてきた全てが一つの力となって3神を打ち破らんと動き始めます。
この最終巻の展開はまさに圧巻と言っていいでしょう。13冊に渡って積み上げてきた「いぬかみっ!」世界を作者が全てさらけ出して、この時のためにこそ今まで筆を進めてきたのだと言わんばかりの怒濤の、怒濤の、怒濤の展開。その勢いに乗って啓太たちが戦う!走る!戦う!
正直、ここまで上手い事物語の過去を回収しているライトノベルは決して多くないと思います。今まで時間をかけてゆっくりと集まってきた「小さな力」をより合わせて大きな力に変えていく・・・そして最初に3神の大きな防壁を崩したのは、大きな力なんてないはずの××(珍しく伏せ字)でした。

「全ての力を使えば……仲間がいれば。そう。いつだって仲間がいればその仲間たちの持っている全ての力がすなわちその人の力なんだ。ならば、僕だって」

この登場人物は「いぬかみっ!」世界での登場は早いですが、まさかこんな見せ場がやってくるとは思いもしませんでしたね・・・。

総合

星5つ。見事の一言ですね。
読み始める前は13巻と同じようなテンションで進んでいく物とばかり思っていたのですが、予想を上回る激流のような展開でした。過去と現在の全てを使って未来へ戦い抜けようとする「いぬかみっ!」世界の登場人物は、主人公こそ啓太とようこですが、一人一人が見事に光っていましたね。
うーん、有沢まみずを侮ったらいかんな〜としみじみ思ったりした一冊でした。この14巻を読むために1巻から読み出しても良いくらいですね。ライトノベル的爽快感を感じさせる作品としては、ある種の頂点を極めたと言っても言い過ぎではないかも知れません。