薔薇のマリア(7)SINBREAKER MAXPAIN

薔薇のマリア〈7〉SINBREAKER MAXPAIN (角川スニーカー文庫)

薔薇のマリア〈7〉SINBREAKER MAXPAIN (角川スニーカー文庫)

ストーリー

多大な犠牲を払いながらも、実体化した贄の園の住人「サリア・ベル」を撃退したマリアローズを始めとするZOOの面々だったが、払った犠牲も大きかった。蘇生式の出来ない環境でのカタリの死——。それはカタリの完全な死を意味していた。
魚顔と言われ、死にマニアと言われ、しかしそれでもクラン・ZOOのムードメーカーだった彼の死に、打ち拉がれるZOOのメンバー。それはマリアローズだけではなく、普段からぼーっとしているトマトクン、戦闘機械のようなピンパーネル、僧侶のトワニング、冷静に見えるユリカまでも例外無く打ちのめしていた。
しかし、一つの情報が彼らに力を与える。オストロス神殿の生き残りが彼らに語ったのだ——壊された祭壇以外にも、封印された祭壇が神殿に残っているかもしれないという事を。これで彼らの進む道は決まった。
そしてパンカロ・ファミリージェードリの人々を率いるジョーカーと血塗れ聖堂騎士団の最終決戦も勃発する。
ジェードリ編の最終話となる7巻です。

激烈です。

6巻も激しい戦闘が続く話でしたが、それに環をかけての戦闘ですね。
もちろん前半は大きすぎる喪失に沈むZOOの面々が描かれるのですが・・・その姿が——こう言ってはなんですが——実にいいのです。また気になったキャラクターを何人かピックアップして話の紹介に変えましょう。

マリアローズ

世界はこうして進んでゆくんだろうか。誰かが大事なものを失っても、世界は続いてゆく。そんな残酷な真実を僕らに突きつけながら、世界は一方向に突き進んでいって、決して後戻りすることはない。だったら、僕は取り残されてしまいたい。僕を置いていってくれていい。置き去りにして欲しい。だって、怖いんだ。怖い。怖いよ。怖くて仕方ないよ。知っているからだ。わかっているんだ。何を、だって……? 白々しい。わかっているくせに。そう。わかっている。
僕だ。
僕なんだ。僕が悪い。僕のせいだ。ぜんぶ、何もかも、僕のせいなんだ。

いっそ見事と言える程のヘコミっぷりです。この強烈な明暗こそがマリアローズの魅力ですね。怯え、震え、恐がりながら、それでも意地を張り続けてしまうある種の・・・みっともなさ。諦めの悪さ。それこそがマリアローズの素晴らしさですね。
引用した所はヘコんでいる所ですが、ここから反撃が始まります。

ユリカ

いつも冷静なお姉さんのユリカですが、流石にカタリの件では衝撃を受けてしまい、彼女の地が少し見えます。マリアローズに対して彼女はこんな風に言うのですが・・・。

「——しょうやって、卑屈に、自虐的になって! しょれで気が晴れるなら、いいわ、好きなだけ、いくらでも言いなしゃい! わたしのことも、自分のことも、傷つけたいだけ傷つければいい! しゃあ、遠慮しなくていいわ! わたしはちっとも怖くない!」

この言葉だけなら気丈ないつも通りの彼女のままと言えそうですが・・・しかし・・・。

だって、嘘だ。気が晴れるなら、いくらでもわたしを傷つければいいと、遠慮しなくていいと、わたしは怖くないと言いながら、本当は怖かった。怖いのに、傷つけて欲しかった。ぼろぼろになりたかった。立っていられないほど、めちゃくちゃになってしまいたかった。
わざとマリアを挑発したのだ。

壮絶な過去を背負う彼女の想像以上にドロドロとした内面。そしてある人に対してはもっと怖い事を考えていたりします。

いい気味だ。
あなたはわたしがとても深く傷ついていることを知っている。わたしが見かけほど平気じゃないことにも、おそらく気づいている。だから、あなたはすごく困惑している。どうしていいかわからないでいる。
いい気味だ。

いいですねえ・・・ユリカ。良いキャラです。評価が2ランクアップって感じですね。
憎悪やら嫉妬やらといった感情は決して歓迎されない類いのものですが、間違いなく人間の否定出来ない一面であり、それが容赦なく描かれる所が「薔薇のマリア」シリーズの良さです。
無駄に格好をつけられない。彼らはみっともなく、矮小で卑屈で惰弱な人達です。しかし「理不尽と感じたものに対して真っ正面から抗う者たち」でもあります。その愚かとも言える無謀な抗いの瞬間の輝きがとても美しいのですね。

トマトクン&ピンパーネル

どこか非人間的な部分のある彼らですが、今回そんな彼ら——特にトマトクン——にも一つの転機が訪れたようです。

男は身を屈めて手をのばし、カタリの頭を軽く撫でた。
「こいつだって、こいつらしく生きて死んだ。ジョーカーの言うとおりだ。べつに長く生きればいいってわけでもなかろうしな。まだ早いだのもっと先があっただのと考えるのは、死んだ本人じゃなく残されたやつらだ。こっちの勝手で、俺たちの都合だ。俺が俺としてどう思うかだ。カタリ、お前は——お前たちは、どうやら俺にとって違うらしい。うまく言えんが、少なくともお前たちが死ぬことは、俺にとって特別みたいだ」
男は姿勢を戻して両の目尻を右手の人差し指と親指で軽くぬぐった。
「えらく時間がかかったが、ようやくわかった。こういうとき、どうすればいいか。いや、違うな。何か考えて、どうこうする必要はない。自然とそうなる」
「はイ」
「高い授業料だ」
「返しテ、もらいマス。耳ヲ・そろえテ」

今回は、いや、今回も激烈戦闘を繰り広げるトマトクン&ピンパーネルですが、特にトマトクンは凄まじい所を見せつけてくれます。彼の、意地、信念、あるいは、情? でしょうか。心の底こそわかりませんが、全身全霊で前へ突進する高貴とも言える姿を見せてくれます。

総合

星5つ。
ZOOの面々の戦いは、既に人生の戦いとイコールです。その姿は華麗とは言い難いのですが、それが素晴らしく思います。
難しく書く必要もないでしょう。彼らは弱さ含めて素晴らしい。そして彼らを描ききり、物語を綴る作者の能力にも惜しみない拍手を送りたいですね。
イラストのBUNBUN氏に特に文句をつける所はありません。今回のお気に入りはラストの方の、見開きで描かれたトマトクンの姿ですかね。

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